年金どうなる? 運用資産160兆円GPIFの「運用方針変更」は何を意味するのか
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年金どうなる? 運用資産160兆円GPIFの「運用方針変更」は何を意味するのか
公的年金の積立金を預かるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が運用方針を変更することになった。マイナス金利の影響によりリスクヘッジ目的で日本国債を買うことが難しくなっており、為替ヘッジを講じた外国債券について、国内債券扱いとすることで、外国債の比率を大幅に引き上げる。今回の運用方針変更と前後して、GPIFのキーマンともいえるCIO(最高投資責任者)の水野弘道氏が退任するという報道が流れた。結局、水野氏は留任となり、引き続き運用を担当することになったが、人事をめぐる奇妙な報道と運用方針の変更は密接に関係していると見る関係者は多い。国民の貴重な財産である年金を預かるGPIFに何が起こっているのだろうか。
経済評論家 加谷珪一
経済評論家 加谷珪一
加谷珪一(かや・けいいち)経済評論家1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。
<目次>- アベノミクスで180度姿を変えた公的年金の運用
- トランプ氏の強引な金融政策が市場を変えた
- もはやリスクヘッジができない?
- 市場が注目するGPIFの新しいポートフォリオ
アベノミクスで180度姿を変えた公的年金の運用
GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)とは、日本の公的年金のうち、厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を行っている団体。その運用資産は159兆2154億円(2018年度末ベース)で、世界最大の規模を誇る。 従来は公的年金の運用という性質上、安全第一の運用を行っていたが、安倍政権の強い意向を受け、国内と米国の株式に積極投資する世界でも有数の投資ファンドへと変貌を遂げた。 現在では国内株式に25%、海外株式に25%、海外債券に17%を投じており、市場運用を開始した2001年からの累積収益額は65兆円を突破している。特に近年は、トランプ相場による米国株上昇の恩恵を受け、高収益を続けてきた。 もっとも、公的年金という国民にとって最後のとりでとなる資金を、リスクの高い投資に振り向けて良いのかという指摘や、毎年、発生する年金財政の赤字穴埋めを目的とした資産運用において、累積キャピタルゲインを重視する投資方針がふさわしいのかという議論は以前から存在しているが、とりあえずこの話は横に置いておく。 GPIFを一般的な投資ファンドと見なすのであれば、今のところ良好な成績が続いているとみて良いだろう。 だが株式中心の投資はリスクが高く、リーマンショックに代表されるように一気に株価が暴落し、運用資金を減らしてしまう可能性がある。このため、多くの投資ファンドは、株式とは逆の動きをする商品をポートフォリオに組み入れ、全体のリスクを管理している。 GPIFも株式に対するヘッジ手段として債券を購入してきたが、ここに来て困った事態になっている。日銀の量的緩和策によってバブル的な水準まで国債が買い進まれ、金利がマイナスになるという異常状態が恒常化し、これ以上、国債を買い進めることができなくなっているのだ。 為替リスクをある程度ヘッジした外国債券を買えば、国内債券を保有することに近い効果を得られるが、GPIFでは、国内債、外国債、国内株、外国株の比率の上限を厳格に定めており、勝手にこの範囲を超えて株式や債券を購入することはできない。 このため、GPIFは投資方針を変更し、為替ヘッジを加えた外債を国内債と見立て、許容範囲以上の水準まで外国債券を買えるようにする。連載一覧▲ 閉じる▼ すべて表示
トランプ氏の強引な金融政策が市場を変えた
だが為替をヘッジした外国債を組み入れればそれで大丈夫なのかというとそうではない。再選を狙うトランプ米大統領がかなり強引な金融政策を進めており、全世界的に市場の歪みが極大化している。仮に外国債を積極購入しても、リスクヘッジできない可能性が高まっているのだ。 米国の中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)は、米国の景気拡大を受けて量的緩和策終了を決断し、金利の引き上げを進めてきた。景気が良いうちに利上げを行い、本格的に景気が悪くなった時のために、可能な限り利下げ余地を残しておくというのは、中央銀行としてごく自然な行動といって良いだろう。だが、トランプ氏がこの動きにストップをかけた。 トランプ氏は、バランスの取れた金融政策を模索するパウエルFRB議長に対して、何度も「利下げが必要」「根性無し」と迫り、パウエル氏の更迭も示唆するなど、FRBに対する包囲網を狭めてきた。FRBはこうした圧力に抗しきれず、利上げを凍結し、事実上、緩和的な金融政策を復活させてしまった。 これによって株価は再び上昇したが、一方で、長期金利も一気に低下(つまり債券価格は上昇)し、株も債券も歴史的な高水準まで買い進まれるという、一種の異常事態となっている。中国の景気が失速していることもあり、世界のマネーは米国の株式と債券に集中している状況だ。 もしここで米国市場が崩れた場合、債券もバブル的な水準まで買い進まれているため、株式の逃避資金を債券に充当することができない。このため、株も債券も売られるという壊滅的状況に陥りやすい。 しかも、各国の株式市場は完全に連動しているので、米国以外の市場に資金を回すという選択も難しいだろう。現状ではおそらく金くらいしかヘッジする手段はないと思われる。 各国の投資責任者はすでにかなりの恐怖を感じているはずだが、米国株と米国債が急ピッチで上昇している以上、相場の波に乗らないわけにはいかないという事情があり、やむを得ず買い進んでいるというのが実態だ。【次ページ】もはやリスクヘッジができない? その理由とはトピックス
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