「誰も取り残さない」教育ICT化と 労働人口減少時代に求められるスマート社会を 株式会社内田洋行
「フューチャークラスルーム」は1年間でさらに進化
株式会社内田洋行の教育ICT事業のシンボルとも言える東京、大阪各本社の一角に設置されている「フューチャークラスルーム」。アクティブラーニング(能動的に学べる学習方法)や新学習指導要領への対応など、ICT環境を実践的に検証するために同社が独自に開発した、さまざまな学習システムが体感できる未来の学習空間だ。
1年前にその空間を取材したが、本稿のために再度体験してみると、さらなる進歩に驚かされた。
3方向の壁一面がモニター状態になり、そこに文字をダイレクトに書き込んだり、動画を音声操作したり、それが生徒用のタブレット端末に即時に反映されたり、大阪のルームと等身大でリモート通信できたり……と、空間を越えたリアルタイム性と双方向性は健在なのだが、通信機器をつなぐアナログコードやカメラ、マイクなどが見当たらない。コードは完全無線化され、カメラやマイクは壁やタブレットに埋め込まれており、映像も音声もむしろクリアであった。さらに、QRを通して遠隔地にいる生徒が回答した内容が即時にグラフ化されたり、タブレットを通して生徒の表情がアプリで読み取られアラートが出たり……教育ICT化の進化に終わりがないことを、改めて実感した。
「フューチャークラスルーム」では、大久保社長自らプレゼン。1年を経た技術進化に編集部一同驚きを隠せなかった
『GIGAスクール構想』による端末133万台以上の導入を実現
技術革新の手を緩めない同社だが、2021年は全国の学校現場でのICT化の裾野を広げたことが、結果として主力事業につながった。それは、昨年掲載した記事でも触れた『GIGAスクール構想』が、大きく影響している。
『GIGAスクール構想』とは、文部科学省が令和に入り推進してきた、全国の公立小中学校の児童生徒1人に対し1台の端末(タブレット)を整備するというものだ。令和元年に補正予算、さらに緊急経済対策とコロナ補正等が加えられ、総額6000億円に達することは前回の記事でも触れたが、昨年はそれが本格的に施行され、年間800万台のタブレットが学校現場で導入された。その事業を担った一社である内田洋行は、133万台以上のタブレット導入を支援。さらに現場ですぐ使用できるようにキッティング(IT機器の各種設定、ソフトのインストールなど)にも対応し、2期連続過去最高益達成に貢献した。
大久保昇代表取締役社長は、この1年を次のように振り返った。
「正直、一年前に想定した以上の受注量で、最高益を出せたことは大変嬉しいことですが、何より大きなトラブルもなく無事に納品できたことにホッとしています。133万台という大量のタブレットを、実質4ヶ月ほどで導入から設定まで終えられたのは、現場の技術と経験があってこそだと思います」
そうした社会全体の追い風を感じつつも、大久保社長は冷静に、今後の同社の教育ICT事業について語る。
「『GIGAスクール構想』整備の一方で、文科省は『学びの保障オンライン学習システム(MEXCBT)』の開発を進め、そのなかで弊社の学習eポータル『L-Gate』の基本機能が活用されてきました。昨年11月には『MEXCBT』機能拡張版の提供が開始されましたが、現在は約250団体、200万アカウントを超えるお申込みをいただいています。弊社も『L-Gate』製品版でさまざまな学習系データを収集しながら、将来的には他社システムともスムーズに連携できるデジタル教育環境の整備を目指します。一方で、教育現場では教室自体のITインフラが課題で、環境格差をなくしていきたいと思います。また、現場でのIT人材育成も急務であり、特にITが苦手とされるベテラン教師が技術を克服できる研修方法などを模索します。目指すのは、誰も取り残されない教育のICT化です」