BiSHは星をつかんだ「僕の分身」、解散までピュアな音楽を作ろう
全曲手掛ける音楽プロデューサー・松隈ケンタさんインタビュー
第72回NHK紅白歌合戦への初出場決定と、24日に2023年での解散を発表して注目を浴びる女性6人グループ「BiSH」。結成からの約7年間、音楽プロデューサーを務めてきた松隈ケンタさん(42)=福岡市在住=は西日本新聞のインタビューに答え、「おまえたちはすごい。解散までピュアな音楽を作ろう」と万感の思いを込め、言葉を贈った。(聞き手・構成は加茂川雅仁)
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松隈さんはBiSHが結成された2015年3月から、音楽プロデューサーとして全楽曲を手掛けてきた。自らの楽曲が紅白で演奏されるのは初めて。出場決定は「死ぬほどうれしかった」と言う。
「1人でいる時に聞いたので声こそ上げなかったですが、キター、やっとかと。東京オリンピック開催が決まった時に『TOKIO』と読み上げられて、皆さんがうわーっとなったあの感覚です」
「僕はロックバンド出身なのでテレビとか紅白とか、メジャーなものは格好悪いという感覚もある。でも一方で、伝統ある紅白の出場者に選ばれたのは、オリンピック出場と同じくらい名誉なことで、素直にうれしかった。田舎のばあちゃん見てるか、っていう感じですよ」
今回の紅白でBiSHが歌うのは「プロミスザスター」。松隈さんが作曲し、作詞は所属事務所の社長、渡辺淳之介さん(37)との共作だ。「どのくらい歩いてきたんだろう」「きっと巡り合った僕らは奇跡なんだ」と、約束の星をつかむまでの道のりを歌う。
「僕が培ってきたロック、ポップス、ストリングス(弦楽器)の全てを融合させ、美しくはまった曲で、これを歌ってほしかった。彼女たちはみんないろんなオーディションに落ちて、どちらかと言えば地味な子たちだった。僕も35歳まではアルバイトしないと食っていけなかったし、歌詞にはそんな思いがこもっています。だから、この曲が紅白にたどり着いたのは、本当にうれしい」
数多くのアーティストに楽曲を提供し、年間200曲以上を手掛ける松隈さんにとって、BiSHとはどんな存在なのか。
「二つの感情があって。一つは、初めはラジオでもまともにしゃべれなかった子たちの成長を見てきて、自分の娘のように思う気持ち。でも、だからこそあえてスタッフの中では一番遠くからお客さんと同じ立場で冷静に見ようとしています」
「もう一つは、僕の分身であってほしいという気持ち。僕の音楽を代わりに表現してくれるアーティストですから。アニメの『ジョジョの奇妙な冒険』に登場人物の分身みたいな『スタンド』という超能力を持った存在が出てくるんですが、そんな感じです」
BiSHの楽曲の作曲は「彼女たちのストーリーにBGMをつけている感覚」だという。作詞は、松隈さん、渡辺さん、そしてメンバーが行う場合もある。どうやって制作しているのだろうか。
「ロックバンドはギター、ドラマー、ベースなど集団で作っていくので、それと同じ感覚です。楽曲のテーマを決め、仲間たちに作ってもらったバックトラック(伴奏)のうちで一番いいものを選んで僕がメロディーを重ね、仮の歌詞を入れる。それに渡辺さんが手を入れる場合もあるし、メンバーが曲を聴いて一から詞を書き直すこともあります。その時は6人それぞれが書いて、一番いいものを使います」
最後に、ここまで育ててきたBiSHの解散についてはどう思うのか。
「お客さんがいなくなって解散するバンドをたくさん見てきたので、全盛期に華々しく終わるのがいいと思っていました。終わりがあるから美しいのだと思うし。それに、解散まで1年以上あると考えると、ここから先は売れるとか売れないとか考える必要もないし、前作を超えなきゃいけないというプレッシャーからも解放される。彼女たちとひたすらいい音楽を作ることだけを考え、ピュアに向き合いたいと思います」
紅白歌合戦が放送される31日、松隈さんはNHK福岡放送局のラジオ番組「六本松サテライト」に出演する。紅白を実況しながらラジオで生中継するという初の試みだ。苦労を共にしたメンバー6人に、松隈氏はどんな声を掛けるのだろうか。(加茂川雅仁)
■松隈ケンタ
福岡県久留米市出身、1979年生まれ。音楽プロデューサーだけでなく、ロックバンド「Buzz72+(バズセブンツー)」のギタリストとしても活動中。2018年、東京から福岡市に移住し、若いアーティストの育成に注力。今年9月、日本経済大学(福岡県太宰府市)の特命教授に就任し、音楽制作を教えている。
■BiSH
2015年3月に結成。キャッチコピーは「楽器を持たないパンクバンド」。グループ名は「Brand-new idol SHiT」(新生クソアイドル)の略。ファンのことを「清掃員」と呼ぶ。メンバーは、アイナ・ジ・エンド、セントチヒロ・チッチ、モモコグミカンパニー、ハシヤスメ・アツコ、リンリン、アユニ・D。
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