「CFで120万集めたゲームが失敗したうえ25万円は騙し取られました」国産個人開発バトロワ『QUICAL』“大失敗”の裏側に【インタビュー】
その後、5月にクラウドファンディングをやる際にニュースサイトに取り上げてもらって、ある程度有名なYouTuberの方に試遊やRTをしていただいたり注目され2回目のバズを得ることができました。さらに3回目として「必ずベータ参加権をあげる」というリツイートキャンペーンを実施したのが功を奏し4,000RTくらいされてまた話題になりました。
――冒頭でゲームコンセプトの話がありましたが、バズって注目されたことでゲームの開発に何かしら影響はありましたか?
坂すたじお ありましたね。フィードバックやバグ報告の件数が圧倒的に増えて、ありがたくも大変という嬉しい悲鳴でした。
――noteを拝見した際、フィードバックが増えたことで忙しくなり、逆にコンセプトを見つめる余裕がなくなってしまったのかなという印象を受けましたが、実際はどうでしょうか。
坂すたじお 確かに一定の影響はあったと思いますが、かといって記事にされなければ定まっていたかというと別問題だと思うので、ユーザーが増えたからどうこうという感じは無いですね。
――普段Game*Sparkでは、ストアページ公開された面白そうな作品をピックアップしてきて独自にニュースにすることが多いのですが、メディアによる動きについてはどう考えていますか?
坂すたじお あくまで私自身の個人的な考えですが、プレスリリースなど出さずとも拾っていただけたのはすごくありがたいと思っています。やっぱりゲームが注目されるのは嬉しいですし、その分売上が伸びたりDiscordのサーバーの人数が増えたりするので本当にありがとうございます、という感じです。
――本作がストアページを公開した後、ウィッシュリストや売上本数の増加具合はいかがでしたか?
坂すたじお このグラフを見てもらうとわかるんですが、大きな増加が2回発生しています。1回目はストアページを公開してGame*Sparkさんに紹介してもらったときで、2回目はオープンベータの時に増えました。2020年5月頃の少しの盛り上がりはクラウドファンディングを実施した際のものですね。
売上のデータはこちらになります。最初に150本ほど売れ、あとは2回ほど50本前後の波があります。現時点ではトータルで922本売り上げています。購入されている国はやはり日本が圧倒的ですが、他にもアメリカ、中国、ロシア、アルゼンチンなどからも購入されています。
売上高は約7700ドルですが、実際に振り込まれたのは約3500ドル程度です。Steamでの売上高から実際に振り込まれる額は50%程度になってますが、内訳としては
くらいの割合で売上から差し引かれています。
ところで、3500ドルは学生の身分からするとたしかに大きい額なのですが……あとになって開発にかかった時間から売上を時給換算したら「10円」でした……。
「開発者も人であるということは意識してほしい」―開発者とユーザーに伝えたいこと
――それでは、この経験を経て同じインディーゲーム開発者やプレイヤー対して何か伝えたいことがあればお願いします。
坂すたじお 開発者に伝えたいことは、リリース前までどれだけ注目度を集められるか、がゲームの成功度であると感じました。これにはゲーム開発と同じように本当に時間をかけて良いと思います。
そこそこ良い知名度があればリリース日に買ってくれる人が増えて、Steam売上上位にも載って、それを見た人が買う……という好循環が生まれやすい。ゲームの初動でゲームのライフサイクル(そのゲームが終わるまで)で稼げる数が決まると思います。
ユーザーに対して伝えたいことは、フィードバックはすごくありがたいということです。中にはあまり参考にならないものもありますが、「ここは良いけど、ここは面白くなかった」みたいなことをしっかり書いていただけると参考になります。
「操作がわからなかった」というのも重要なフィードバックで、じゃあそこに説明を入れようみたいなサポートを増やすことにもなるので、フィードバックは本当にありがたいです。
あとは、もしそのゲームがつまらないと思ったら、批判的なレビューは書いて良いと思います。でも、私達も人間なので痛いことを言われると心にグサッと来ます。なので、批判的なレビューを書く際はもうちょっと開発者のことも考えて投稿してくれるとメンタル的にもありがたいなと思います。
――もしも時が戻せるなら、どのタイミングに戻したいですか?
坂すたじお これはもう、実際の開発を始める前ですね。先程のアセット周りの話にもつながりますが、『QUICAL』はFPSの基本的な要素が入っているプログラムアセットを利用して作りました。
ですが、蓋を開けてみればアセットのコードの品質があまりにも低すぎて、アセットそのもののバグの修正に手を取られたり、何か追加したいと思った時コードを読むのにすごく時間がかかってしまって……要素の追加作業時間の半分はコードを読んでいる時間、みたいな状況で手軽さ以上に無駄な時間を費やしてしまいました。
なので、同じくアセットを利用していたとしても、開発初期でベースとなるアセットをもっと選定しておけばクオリティの高いものになったんじゃないかなと思います。
開発中の新作工業系ゲーム『moorestech』について
――大変興味深いお話を聞くことができました。それでは『QUICAL』の話から次に進めまして、現在開発中である『moorestech(ムーアステック)』の簡単な概要を話せる範囲で教えていただきたいです。
坂すたじお このゲームのコンセプトを一言でいうと、ちょっとニッチですが「大量生産要素のある『マイクラ』工業Modパック」です。概ねどういったゲームかというと、『マイクラ』の工業Modであったり『Factorio』『Satisfactory』あたりを想像していただければそれに近いものになっていると思います。
『Factorio』や『Satisfactory』は大量生産するための工場やラインを建設するというのがメインでそこが面白いのですが、一方で『マイクラ』工業Modパックの良いところは「作りたいアイテムを作るための機械を作るための機械を作るための……」というのが無限に続くのが面白い点です。
大量の中間素材をひたすら作る、「中間素材祭り」と呼ばれるものが私的にはすごく面白くて、これに先程挙げた2作品のような大量生産をするためのラインを作るという要素を足したら面白くなるのではないか、というのが開発のテーマとなっています。大量生産を主軸に置きつつ、工業Modの中間素材祭りを楽しむ事ができるゲームというのを目指して開発しています。
――現在までの完成度や開発期間、今後のリリース予定時期なども教えていただきたいです。
坂すたじお 現時点で半年ちょっとくらい開発をしていますが、完成度はまだ10%から15%くらいですね。現在の計画では、今年中に最低限遊べるプレアルファの段階まで行くことを目標としています。
その後は、来年中にベータ版を、開発が順調に進めば早期アクセスが視野に入るくらいの完成度に持っていくことを目指しています。そして1年半後までには早期アクセスに進めて、正式版は2、3年後にできるかな、といった構想です。
――「リリース前まで注目度を維持することが大切」と仰っていましたが、今作ではどのようなその対策として計画をしているのでしょうか。
坂すたじお 今作の開発のテーマとして「Game Development as a Service」というのを持っています。これは、ゲーム開発自体をサービスとしてユーザーに提供するというテーマです。
開発側は、開発の進捗や新要素の導入について意見を聞き、ユーザー側は意見を提案したりフィードバックを行ったりとゲーム開発に貢献できる、という双方向のコミュニケーションを行いながら開発をするということを目指しています。『moorestech』はオープンソースで開発を行っているのですが、それもこの一環です。
本作は長期的な展開を計画しています。なので、ゲーム自体の面白さはもちろんですが、面白いコミュニティも形成していって、口コミの力で徐々にユーザーを広げていきたいなと考えています。また、『QUICAL』で成功したRTキャンペーンについては今回もやりたいと思っています。
大企業に務めつつ、インディーも作りたい
――現在大学3年生とのことですが、今後はゲーム業界に入りたいといった願望はあるのでしょうか。
坂すたじお はい、ゲーム業界を目指しています。ゲーム業界に勤めつつ、インディーでもゲームづくりを続けたいと考えています。
――入社したい会社の規模としてはどのような感じでしょうか。
坂すたじお 大きいゲーム会社で働きたいなと思っています。規模の大きいゲームにはそれにしか無い魅力や開発体制、技術を学びたいというのがあります。あとは単純に、大手だと給料が高くてホワイトだからというところです(笑)。
もう一つ、私は保険をかけておくのが大好きなので、ゲーム開発者として生きていくなら相当な額を稼げない限り会社勤めはやめないと思います。もし『QUICAL』が超大ヒットしていたとしても絶対会社には行こうと思っていたぐらいなので。
社会人になっておけば社会人としての経験を履歴書に書けるので、もし今後なにかのきっかけで失敗しても再就職の道を残せますから、絶対に新卒カードを切って大手に行って履歴を残して保険をかけていこうというのも会社勤めをしたい理由の一つです。
Steamに開発者として登録するためだけにパスポートを発行した
――そもそもですが、なぜゲームづくりを始めようと思ったのでしょうか。
坂すたじお 高校2年生の頃『Goat Simulator』が好きで遊んでいたんですが、街全体の破壊とかはできなくて、せいぜい人と車と小物しか壊せないのが割と不満だったんです。
そこで街や地形を全て破壊できるゲームがあれば面白いだろうなーという思いからUnityなどのプログラミングを勉強し始めたのがきっかけです。
――プログラミングは独学で学んだのですか?
坂すたじお そうですね、基本的に独学です。ネットと本をメインに、あとはUnityの海外フォーラムを参考にして、たまに本当にわからないことが発生したら、Unity開発者ギルドというところでアドバイスを求めたりという感じです。
――その辺りで大変だったエピソードはありますか?
坂すたじお 私が学生ということもあり、どうしてもゲーム販売に際し親の協力を得る必要があり、Steamの開発者登録をしたいという話をしたんですが、当時は期末テストが近くて「一回期末テスト終わってからにしない?」と言われました。
でも「いや、今やりたい!」と言って勉強もしつつ、Steamの開発者登録も並行して行いました。期末テストも特に赤点ということもなく、そこそこの点数を取っていますよ。
――「お母さん、Steam(海外)でゲーム売りたいから試験よかったら手続き手伝って」って中々すごい話ですよね。
坂すたじお ちなみに、当時はマイナンバーカードがおそらくまだ無かったので、身分証としてSteam開発者アカウントを取るためだけにパスポートを発行しました。今も持っていますが、一回も海外旅行には行っていないです(笑)。
――ありがとうございます。Twitterでの発言を見るにまだまだインディー開発者として活動していきたいと考えているように感じましたが、最後に今後インディー開発者としてどのように活動していくか、なにかビジョンがありましたら教えていただきたいです。
坂すたじお まず、『moorestech』を長期タイトルにしていきたいと思っているので今後5年くらいは続けていけたら、と考えています。
「自分のやりたいゲームを作る」というのが私のインディーゲーム開発における軸なので、ブレることなく今後も作り続けていきたいです。
――ありがとうございました。
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