Steam Deckは携帯ゲーム機とPCのハイブリッド? わかりやすいOSと圧倒的なカスタマイズの自由度について
Valveが新たに発表したデバイス「Steam Deck」は、2つのまったく違う言葉を2つ組み合わせた、ある意味不思議な名前になっている。Steam Deckは、PCの性能をフルに備えつつ、主にゲームパッドで操作するポータブルゲーム機でもあるのだ。これら2つの要素をうまく一緒にすることを可能にしているのは新バージョンのSteam OSだ。このOSは、シンプルで使いやすいUIが2つの要素の間にあるギャップに橋をかける役割を果たしている。とにかくトラブルのないゲーム機を望んでいるが、同時にそれを超える想像できる限りのあらゆる可能性にも期待している人々にとっては最適なものとなっている。
Steam Deckを実際に試し、このデバイスを制作したValveの人々に話を聞いた。彼らが最優先して考えていたのはソフトウエアとOSだったという。Steam Deckは何かに特化したものでありながら、それと同時に幅の広いものである必要があった。また、50インチサイズのテレビやデスクトップコンピューターのモニターにも対応でき、(おそらくこれが最も重要なことだが)かんたんに持ち運べる必要もあった。最終的には、速くてフレキシブルなOSを開発することが最も重要だったとValveは教えてくれた。
「本当にこういった考えから始まりました。ユーザーがこのデバイスをさまざまな場所に持っていくだろうということはわかっています。プレイヤーはいろんな遊び方をするでしょう」とValveのデザイナーのTucker Spoffordは言っている。
「1回ごとのプレイ時間は短くなり、本当に素早くプレイ開始したいと思うようになると思います。ですから、ユーザーがゲームをすぐに見つけられることがものすごく重要なことでした。自分のライブラリーの中のゲームもそうですが、見てみたいと思うゲームや、新しく追加されたゲームもです」
最終的に、Steam Deckのためのまったく新しいUIが誕生することとなった。ValveがコントローラーでプレイしやすいUIの開発を手がけたのは初めてのことではない。Steam LinkやBig Pictureモードでも、デスクトップでないところでプレイするときにはコンソール風のインターフェースになっている。しかし、Big Pictureモードが登場したのは10年近く前で、確かにライブラリーは見やすいとはいえ、いくぶん古臭く、やぼったい感じになっている。ビジュアルは当初からほとんど変わっておらず、このやぼったさについては、Valve内でも言及されていた可能性があることが明かされている。
「理解しなければならないのは、Steam Deckのオペレーティングシステム(OS)はとにかくSteamなのだということです」とSpoffordは言う。Big Pictureのようにもっとうまくコントローラーに対応させようと手直しが続いたが、Big Pictureと違って、Valveのバックエンド的には「Steam Deck」は派生製品ではない。見た目は違うが同じSteamなのだ。最近のSteamの改良ではBig Pictureモードがないものもあったが、これは2つの違うバージョン間で簡単に開発点をシェアできるとは限らないためだ。しかし、「Steam Deck」は自動的にすべてを受け継ぐので、Valveが「Steam Deck」のために開発したことはSteamの改良にも役立つということになる。
これはValveにとっては時間と開発にかける労力の節約にもなる。Steamチームにとっては、かけた時間が2つの製品のためであれば、改良や変更にかかる作業を正当化もしやすくなる。 Big Pictureモードは必要な場合は引き続き使用できるが、Big Pictureと比較するとSteam DeckのUIの操作性の良さには驚かされる。特定のゲームを探し出すことも全体のナビゲーションもどちらもより簡単で、現在のコンソールのUIにかなり近いほど洗練されている。
ここには、Steamに期待されることがすべてある。SteamワークショップにはインストールしたMODが記録され、Steamクラウドではセーブしたものが同期され、Steam実績はこれまでどおりプロフィール内のデータを追跡する。Steamの拡張コントローラのカスタマイズ(公式にコントローラーに対応していないゲームでも)は手持ちでプレイしていても、ドック接続されていても利用できる。Steam Remote PlayはほかのPCからSteam Deckにゲームを配信できる。逆にSteam DeckからPCでも可能だ。そのほかにもたくさんある。Valveはこれまで20年近くの間、Steamのデスクトップバージョンを作り上げてきた。Steam Deckでは、その恩恵すべてにすぐにあやかることができる。
これらの機能はすべて通常のコンピューターで利用できるものだが、ある1つの機能をSteam Deckが実装できるようにValveは尽力してきた。コンソールのプレイヤーは当たり前のように使っているが、PCプレイヤーはこれまでうらやましく思うだけだった機能、ゲームの一時停止だ。Switchのように、セーブなしでプレイしているゲームを無期限で止めることができる。途中で止めて、あとで再開できるのだ。これを当たり前のことだと思っている人も多いかもしれないが、PCゲームでは簡単に解決できる問題ではなかったとValveは言っている。
「この機能については、AMD(「Steam Deck」のAPUのデベロッパー)との話で最初から出ていましたし、内部のSteamのデベロッパーの間でも話題に上っていました」とValveのデザイナーのGreg Coomerは言い、解決しなければならない問題の中で一番難しいものではなかったものの、「この機能が大切だということを忘れてしまわないように、とにかく確認していた」と説明している。チームにとっては、Steam Deckがどのように使われるかということのコアとなるものだったため、速くてフレキシブルなOSの必要性がフィードバックされ、絶対に落としてはならない優先事項となっていた。
また、今回プレイを行った開発中のデバイスにはまだ実装されていなかったが――Steam Deckでゲームを止めて、止めたところからデスクトップPCでプレイできる方法の可能性も探っているところだとValveは話している。これは、「Steam Deck」のOSがそのままSteamであるという利点の一部でもある。改良が行われれば、簡単にデスクトップでのプレイにも適応できるのだ。「Steam Deck」で行われた変更は12月に「Steam Deck」のデバイスが販売される前、デスクトップバージョンでリリースされる予定だとValveは言っている。
PCとの併用には特に興味がない人にとっては、Steam Deckは1台で完結するデバイスだということをValveははっきりと伝えようとしている。ライブラリーの統合、ストア、SNS的な機能がすべて1台に入っているというのは、重要な要素だ。
「長い間、どのようにしてSteamのプラットフォームに持ってくるか検討されていたものの1つは、Steam DeckのSteamのホーム画面です」とSpoffordは言っている。「たくさんのファンに、この機能がすごくいいと感じてもらえたらと思います。プレイしているゲームにすぐに戻れて、友だちのプレイしているゲームを見たり、ストアに新しく追加されたものを見たり、自分のライブラリー内の新しいアイテムを見たり、次にプレイするおすすめゲームの情報も受け取れる。これらすべてがホーム画面内にあるんです」
「Steam Deck」のユーザーは、ドライバーのアップデートのようなPCでプレイする場合の面倒な点について心配する必要もない。リリース後、ValveはSteam OSとSteam Deckのソフトウエアのアップデートを計画しているが、必要に応じてコンソールと同じように簡単なパッチを当てられる。最近はPCゲームでもドライバーのアップデートはそれほどやっかいなことではないが、少なくとも、面倒なことはいっさいなしでいきたいと思っている人にとっては心理的な壁にはなるものだ。そういった人たちにとっては、Steam Deckが自分たちの望むような体験を提供することを目指しているというのはうれしいことだろう。
もちろん、そういった洗練された環境以上のものを求めている人たちにとっても、Steam Deckは通常のコンピューターと同じように扱えるLinuxベースのデスクトップでもある。インストールしたいソフトウエアは何でも入れられるし、Steam Deck内のLinuxと互換性のあるレイヤー、Protonで動作するものは何でもインストールできる。それには、Steamでないゲームやサードパーティのストアも含まれる。もしやりたければ、Steam Deckを完全に初期化してWindowsをインストールすることさえも可能だ。ValveはSteam DeckというPCゲームプラットフォームのオープンさを強調しており、Valveがやりたいと考えていることは、独占の技術で壁に囲まれた庭や閉じられたいくつものドアを作ることとは真逆なのだ。
これは通常のコンソールとはまったく違うスタンスだろう。規制がないということは、おそらくSteam OS(とデバイスのデザインそのもの)が根本的にゲーミングPCとしてほかとはまったく違っている一番大きな部分だ。そして、Valveがカスタマイズのマインドを持ち続けていることをうれしく思う。また、スマートでモダンなコンソールスタイルのUIを作るための努力に感謝もしたい。Steam Deckは2つの異なる世界に同時に存在しようとしているが、これまでに目にしたものから考えると、それはうまくいくだろうと思う。
Steam Deckについてもっと詳しく知りたい人は、IGNの体験記事をチェックして、UIを離れてゲームに入るとどうなるのかなど、実際に見てみてほしい。Valveがさまざまな質問に回答しているQ&Aや価格設定がSteam Deckの成功の決め手となるとゲイブ・ニューウェルが考えた理由もチェックしよう。そのほかにも「Steam Deck」の情報はこれからたくさんお届けする予定となっている。