FPS初心者がのめり込んだ『VALORANT』の光と闇と日本と世界の狭間の中で【夏のおすすめゲームレビュー】
ファミ通.comの編集者&ライターが2021年夏のおすすめゲームを語る連載企画。今回は、ライアットゲームズによる基本プレイ無料のFPS『VALORANT』を紹介します。
広告【こういう人におすすめ】
たむ爺のおすすめゲーム
『VALORANT』
『VALORANT』公式サイト「『VALORANT』、楽しいし、開発陣の思想の高さを感じるし、すごくよくできている」、これが率直なこのゲームの感想です。他方で、プレイした人のほぼすべての人が感じるであろう、「心が折れる」というゲームでは味わいたくない感情を得てしまうゲームであることも事実でしょう。
端的に表すとそんな両極端な思いが出てくる作品ではありますが、ゲーム史、ことさらeスポーツ・競技シーンにおいては大きな存在感を見せているというのも事実で、このゲームの作りや開発・運営方法、そしてユーザーの受け入れられかたなどから、ゲーム業界や日本の現状や未来を垣間見ることもできます。そこで『VALORANT』をさまざまな方向から分析・解剖し、あれやこれを見ていこうと思います。はい、日本の明るい未来を願って。
ストイックさを追求した“そこに山があるから登る”的なゲーム
まず簡単に筆者の説明をすると、ゲームはファミコン発売のちょっと前から触っている、ちょっと歴史の深い面を持ちながら、FPSは『VALORANT』がほぼ初めてという特殊な人です。初めてといっても、『DOOM』とか知っていたし、シングルプレイFPSは多少プレイしたことはあったというレベルで、ただ多人数の対戦を伴うFPSは少し避けていたという感じです。なぜ避けていたかというと、いまとなってははっきりとした理由が思い出せないほどながら、おそらく“銃で人を倒し合う”というゲームが苦手だったのと、FPSで必要なエイムを養う気力と根気をもちたくなかったというところなのかなと思っています。
ではなぜ『VALORANT』に手を出したのかという点に関しては、“開発のライアットゲームズが初めて挑んだFPSタイトルだったから”、“グラフィックボードを含め初めて自作PCを組み立てたから”、そして“eスポーツ・競技シーンを知りたかった”というところなのかなと思っています。もちろん、純粋にFPSを楽しみたいというのもあって、その上で戦略性が問われるタクティカルシューティングを強調していた点が引きとなりました。FPSは初心者ながら、TPSの『スプラトゥーン』は『1』からかなりやり込んでおり、何らかやり込めそうなFPSタイトルをなんとなしに長年探していたというのもあったのかもしれません。
そんな自分がそれなりに時間をかけて遊んで感じたのは、『VALORANT』は徹底的に個人の能力が反映されるゲームということです。エイムひとつとっても、たとえば歩いたり走ったりして撃つと照準からずれてしまうストッピングの概念や、ヘッドショットを中心にした精密なショットが要求される点、位置や状況把握で不可欠なサウンドなど、いち要素いち要素それぞれに意味があり、かつ大事なもので、そしてほんの少しの運要素を混ぜながらも可能な限りプレイヤーのスキルが反映されるように仕上げてます。となると、ヘッドショットを連発できたときや活躍できたときの達成感、“やってやった感”は相当なものになるわけです。裏を返すと、そうできなかったとき(この状態のほうがたいてい多いのですが)の壁にぶつかっている感や絶望感も十二分に味わえるわけです(あまり味わいたくはない)。
この、純粋なる自分のスキルが現れる感、自分自身を高めて山を登っている感は壮大なものです。このゲームは対戦型のため、クリアーというものはなく、どこまでいっても単に勝利を目指し、そしてそれを勝ち取るために何かを得るゲームです。そのため、ゲーム内での最終的な達成目的があるわけではなく、あくまで勝つ、もしくはうまくなるためにプレイするというのが目的になります。もちろん、同時に楽しむ、または単純におもしろさだけのためにプレイするというのもあるものの、こちらのほうは先程のものに比べるとやや薄い要素とも言えます。
そしてもうひとつ大事になってくるのがタクティカルシューティングと銘打っている戦略性で、前述した個々の能力が仮に高くあったとしても、戦略・戦術・連携力に富んだチーム力には叶いづらいバランスになっています。和>>>個な感じです。ゲームは基本5対5となるのですが、ひとりの高スキルプレイヤーよりも、個の動きばかりを行ったり、チームを乱したりするようなプレイヤーひとりといっしょにならないことを強く願うほどです。
これはひとえに、『VALORANT』がeスポーツ・競技シーンをターゲットにして作られているからであり、それはリリース開始後から大規模な大会を開くなど世界的な活動を行うだけでなく、多くのプロを作り、『VALORANT』で食べていける人たちを生んでいることからもわかります。この詳細は後述するとして、この一線で取り扱われるタイトルになるべく、とことんこだわった仕様や作りが至るところで垣間見ることができ、それゆえ、勝ち負けと自分のスキルをニアイコールで考えられ、かつ納得できるというのが特徴となります。
もちろん自分は夢でプロレベルになれたらと思っても、現実ではどう転んでも無理なのは痛感しているので、この道で食べていくためにプレイしているのではなく、あくまで楽しむ、またはできる範囲の中で自分を高めていくということのために遊んでいて、上手でない、またはエンジョイ勢でも楽しむことは可能です。ただ、後述させてもらう悪い点のインパクトも強いため、その継続がしづらいというのも事実。
「なぜ山に登るの? そこに山があるから」に近いゲームなのかもしれないです。
非課金者も課金者も存分に楽しめる作りと徹底したバランス調整
完全無料ですべて楽しめる本作。課金システムと、その課金に対しての方向性が秀逸で、性能・能力差が生まれる課金要素は作らず、しかしながら十分な収益を稼げる、課金したくなる作りにしています。具体的には、操作できるキャラクター、エージェントは制限があるものの、試合をするともらえるポイントを稼げばロックの解除が行え、ほかの同様のゲームに比べるとポイントも少なめにあります。
また、象徴的なことが、スキンやエフェクトの変わる武器の定期的な追加、及びそれに対する課金対応で、課金による特別感を与えながらも、決してスキンの違いによる性能差を生まないよう徹底的なグラフィックとバランス調整を行っている点が挙げられます。つまりはどのスキンを使おうと同じ武器であればまったく違いは出ないということになります。エフェクトや相手からの見えかたなどその調整だけでもすごいところながら、その上でさらにすごいのがかっこいいエフェクトのものを作るだけでなく、「このスキンだと敵を倒しやすい」といった心理的効果を与える点にあります。
課金要素は一部ロック解除のための時間の削減、もしくは着飾る衣装のためのもので、たとえば課金しなくても競技シーンでは一切の差がなく参加でき、課金した人は気持ちよくプレイできるものであり、開発・運営側はそれで存分に稼いでいるという、みんなにとって損がなく得する仕組みを構築しているわけです。
無料ゲームでよくある、基本プレイはできるといいつつ、回数や時間制限があったり、ガチャ要素もりもりだったり、そういう手を使わずにちゃんとお金を稼げているわけです。この点は、他社も大いに参考になるのではないかと思います。
一気にeスポーツタイトルの上位に上り詰め、配信数でもつねに上位をキープ
正式リリース後、またたく間に競技シーンで見かけるタイトルになり、公式の大規模トーナメントも昨年、今年と開催され、まだまだ盛り上がりを見せている『VALORANT』。5月に決勝が行われた“VALORANT Champions Tour 2021 Masters Reykjavík”では、賞金総額60万ドル、優勝チームには20万ドルという国内では考えられない規模で開催されました。すでに次回の開催も行われており、世界各国で予選、勝ち抜いたチームが集いベルリンで決勝トーナメントが9月9日(現地時間)に行われることになっています。
ようやくこの数年、活動の幅や人数の増加が見え始めてきている日本でのプロゲーマー。いろいろな法や規制でアメリカから数年遅れ、規模も小さいものとなっているものの、少しずつ世の中の認識や環境も変わってきている昨今、その世界を代表するタイトルとして現役なのが『VALORANT』でもあるわけです。つまり、現在ゲームのプロとして生きていくための道を切り開いてくれているタイトルということになるわけです。
残念ながら国内での活動や規模はやはりアメリカとは比べものにならないですが、夢のある話をすると、このトーナメントで有名トッププレイヤーのひとりTenZが100万ドルを超える移籍金で他チームに移り、そして5月開催されたステージ2で見事チームを優勝に導いたという話もあります。プロゲーマーというまだまだ稀有な職業において、アメリカンドリーム的な金額を稼げる世界がすでに存在するわけです。
アメリカのeスポーツ情報サイトThe Esports Observer が行っているeスポーツタイトルのTier(層・区分)の算出においても『VALORANT』はTier1に早々にランクインし、最新の2021年第2四半期集計においても5位という結果になっています(PCの月間アクティブユーザー、分散賞金プール、Twitch eスポーツの視聴時間、総Twitch視聴時間、トーナメント数、同時単収縮ストリームをKPIとして指標化し算出)。
プロを目指す上で取り組むタイトルとしても十二分に価値があるのが『VALORANT』ということになります。
余談ですが、TenZはTwitchでよく配信を行っています。その配信の中でのエイム練習を見ると、その技術力の高さと、なぜ第一線でいられるのかがわかり、と、同時にプロのレベルを目の当たりにして羨望や絶望といったいろんな感情にとらわれます。
ストイックさゆえの息苦しさと受ける罵詈雑言
さて、最後に『VALORANT』の短所も語らなければなりません。まず挙げられるのが、プレイ環境の構築が必要な点となります。ゲーム自体は無料ながら、実際にはプレイするためにはそれなりのスペックのパソコンを用意しなければなりません。その費用、モニターなども含めると20~30万はかかるでしょう。もちろん10万程度でできなくはないかもしれませんが、ラグなく遊ぶためには120FPS (フレーム/秒)が出せるモニターやグラフィックボードが必要であることを考えると、やはり相当な金額となります。この環境は、ふつうに一般社会人でもなかなか揃えづらい環境といえます。
つぎに挙げられるのが、そのストイックなゲーム性ゆえに起こる、チームメイトからの暴言になります。同じチームメイトへの暴言は、百害あって一利なしであり、なにくそという思いからベストパフォーマンスを発揮できるようになるということは、ほぼほぼないものです。冷静に誰でもふつうに判断できるこのことは、残念ながらゲーム中には適応されず、気軽にテキストやボイスチャットが行えるパソコンゲームということもあって、誰しもが浴びるレベルであります。好不調の波は誰にでもあるし、細かな状況はその人しかわからないし、異なった考えかた・戦略もあるし、何より同じ試合にマッチするから同じレベル帯であるはずなのに、そのときの試合だけを切り取って、心ない言葉が飛び交うわけです。わかっていて、スルーしようとしても、やっぱり悪口は心に引っかかり、このことで心が折れてゲームをもう辞める人も少なくないと思われます。防御策、対抗策はもちろんあるものの、とはいえ誰しもゲームを楽しんでいるのに悪口言われたくないですよね。
一方で、スキルが反映されるゲームがゆえに、動きが悪い、間違った選択をするといった自分の動きでそのようなことが起こるわけでもあります。それもあり、悪口に対して肯定せざるを得ない不本意な自分自身を認めてしまい、自己嫌悪に陥り、そして心が折れるという流れにもなってしまうわけです。このうまくプレイできない自分の不甲斐なさを感じるゲームの作りが、スキルが直結するこのゲームのよさの裏の悪い点になっているわけです。
そして最後にもうひとつ挙げるとすると、やはりストイックさゆえの重さがあります。主体となるこのゲームの1試合は、13本先取となります。ざっくりと30分から1時間は時間を要します。また、FPSゆえ、日々の練習や継続は如実にプレイに影響を与えます。たまにちょっと気晴らしに遊ぼうというのが、しづらいゲームとも言えます。
結論。ストイックな人向け
長々と語っていきましたが、『VALORANT』はゲームのでき、開発から運営まで、ほかに例を見ない世界トップレベルの作品であり、eスポーツ・競技シーン第一線のタイトルゆえのストイックさがあり、ひとりひとりの動きやスキルが重要ゆえに少ないお褒めの言葉や多い罵倒を得られるゲームということになります。純粋に自分のスキルを磨きたい人、披露したい人、またはプロを目指したい人にはうってつけです。
自分のようにあまりうまい部類に入らず、成長が見込めない年代や状況にある人は、ある程度強い心が要るかと思います。ただ、やっぱり活躍できたときのやってやったぜ感大きく、あと東京サーバーで遊んでもちょくちょく非日本語圏の人と遊べてちょっとした文化交流も楽しめます。そういった割り切る余裕があれば、充実した時間を送ることができるはずです。