なぜ同じCPUでも性能差が出るのか? 新VAIO TruePerformanceが教えてくれるノートPC設計の難しさ
現在のノートPCのCPUの性能を規定しているのはアーキテクチャとクロックだけでなく熱設計がもう1つの要素
CPUの性能を規定する要素は、「CPUコアのアーキテクチャ」と「クロック周波数」である。だが、ノートPCではもう1つの要素を考慮する必要がある。それが「消費電力」であり「熱設計(サーマル)」だ。いまやそれはノートPCの性能に大きな影響を与えており、クロック周波数よりも重要になりつつある。消費電力や熱設計を考慮しないかぎり、ノートPCの正しい性能評価はできないということをまず説明していきたい。
現代のいわゆるノイマン型コンピュータ(0と1を用いて高速に演算するタイプのコンピュータのこと)では、CPUやGPUなどの汎用プロセッサを用いて高速に演算していく。そのときに性能のパラメータとなるのは、プロセッサ(ここではわかりやすくCPUとする、以下同)の内部アーキテクチャの効率とクロック周波数だ。前者は1サイクルの間にどれだけの命令を実行できるかを示す「IPC(Instruction Per Cycle)」で表現され、後者はその1サイクルをどれだけ短い実時間にしているかを示す「クロック周波数」になる。
ただし、現在のCPU、とくにノートPCのCPUは、もう1つの要素が複雑に絡んでいて、それがCPUの性能を決定している。それが前述した「消費電力」であり、それに伴い発生する熱を放熱するための「熱設計」だ。
CPUが発生する熱を正しく放熱しなければ、CPUベンダーが規定している稼働保証温度を超えてしまう「熱暴走」状態になり、最悪の場合はCPUが燃えてしまったり、壊れてしまう。
ただ、きちんと冷却さえすれば良いデスクトップPCとは異なり、ノートPCはバッテリや小容量のACアダプタといったかぎられた電力で動かす必要がある。さらに、筐体を薄く軽く作らないといけないため、より小さな冷却機構で放熱を実現する必要がある。
その熱設計の枠を規定している数値がTDP(Thermal Design Power : 熱設計消費電力)だ。なお、誤解してはならないのだが、TDPはCPUのピーク時の消費電力ではない。「CPUがこの電力を消費しているときに発生する熱を排熱できるように設計しなさい」という指標だ。
TDPの数値が大きければ大きいほど、より高度な放熱機構などを実装しなければならない。現代のノートPCでは、Hシリーズ(AMD/Intelとも、ゲーミングノートPCなど)が45W、Uシリーズ(AMD/Intelとも、薄型ノートPCなど)が15W(一部は28W)、Yシリーズ(Intelのみ、超小型PCやタブレットなど)が9~5Wに設定されている。
繰り返しとなるが、TDPは設計スペックのターゲットクロック周波数(現在はベースクロック周波数と呼ばれている)で動作したときの典型的な消費電力で、スペックどおりにCPUが上限に張りついて動作しているときであっても、きちんと排熱して規定のクロックで動き続けるように設計しなさい、というPCベンダーの設計者に対しての指標だ。
PCメーカーがそれを守って設計することで、スペックどおりにCPUが稼働する。逆に言えば、CPUメーカーが規定しているベースクロックは、このTDPの枠が規定していると考えられる。このため、TDPの枠が大きなHシリーズはベースクロックが高めに設定されているし、逆にU/Yシリーズは低めに設定されている。
つまり、現代のノートPCの性能は、IPCという数字で示されるCPUのアーキテクチャの効率と、TDPの枠で規定されているクロック周波数によって決まっていると言える。