首のコリがひどい人は要注意!ステイホーム生活で増加するスマホ病、PC病の予防法
新型コロナの第6波が到来し、しばらくステイホームが続きそうだ。しかしテレワークや巣ごもりに欠かせないPCやスマートフォン利用で、肩や首のこり、それに伴う体調不良、いわゆる“スマホ・PC病”が増加していると、東京脳神経センター理事長の脳神経外科専門医、松井孝嘉博士が警鐘を鳴らしている。特に注意が必要なのが、首こり。「自律神経うつ」という精神病の大うつ病とはまったく別の新しい病気が発症することもあるという。首こり予防とケア方法を松井博士に聞いた。
松井博士によれば、ステイホームで首の健康が損なわれやすいという。
【取材協力】
松井孝嘉博士東京脳神経センター理事長・松井病院理事長。脳神経外科専門医。医学博士。東京大学医学部卒業。45年以上にわたり首の研究を続け、延べ10万人以上の患者を診察。首と副交感神経の関係を突き止め、自律神経失調症の治療を確立する。https://tokyo-neurological-center.com/
例えば、ローテーブルでノートPCを使って仕事をする、スマホでゲームをする、電車内でスマホを使うなど、IT環境が不十分ななか、うつむき姿勢でPC・スマホを使用する時間が増えている。
人間の頭の重さは約6キログラムで、Lサイズのスイカとほぼ同じ。うつむき姿勢が長く続くと、その頭を支える首の後ろの筋肉は働きっぱなしになり、硬くなる。すると、わけもなく体がだるくなり、一晩睡眠をとっても疲れがとれず、朝起きられない、出勤や登校できない、頭痛やめまい、倦怠感、しびれ、ドライアイなどの自律神経失調の症状・病気が現れるという。
松井博士は、この首の筋肉の異常により起こる病気を「首こり病(頚性神経筋症候群)」とし、その治療法の発見者である。最近増加しているうつむき姿勢でPC・スマホを使い続けることで起こる症状・病気を「スマホ・PC病」と名付け、今こそ、PC・スマホ首病の予防やケア、治療をする必要がある」と警告している。
首こりは放置するとうつ病の診断を受けることも
松井博士は首こりについて、次のように話す。
「今から40年近く前は、首こりと肩こりは区別されず、すべて肩こりといわれていました。当時は、首こりという言葉は日本語にありませんでした。そこで私は『首こり』という日本語を必要に迫られて作ったのです。肩はいくらこっても神経症状は何も起きません。しかし首がこると、首の筋肉は副交感神経が直接かかわっているので、身体中に様々な症状が出ます」
首こりを放置すると、頭痛やめまい、倦怠感だけでなく、しびれや不眠、フワフワ感などの不快な症状はどんどん増えて全身に及び、やがて病状が進行すると「何もする気が起きない」「気分が落ち込む」などのうつ症状が必ず出現する、とても恐ろしい病気になるという。
「症状が出ても、その不調の原因が分からないために、最終的には心療内科や精神科を受診し、うつ病の診断を受けることもあります。しかし原因は首こりにあるため、抗うつ薬などを服用しても、別の病気の治療をしているため、治るはずがありません。10年以上も心療内科や精神科で抗うつ剤の投与を受け続けても治らなかった患者さんが、自律神経の治療によって完治して別人のように生まれ変わったという証拠となる実例はたくさんあります」
首こりや、その他の症状に悩まされているなら、首こりケアを行おう。松井氏はいくつか方法があるという。
15分(または30分)に一回、30秒間行う。
(1)イスに深く腰かけて、背中を背もたれにつけ、両手を頭の後ろにまわして組みます。
(2)次に頭を後ろに倒していきます。首が痛くなる手前までで止め、その場で30秒保持します。※基本は、両手で頭の重さを支えて、首の後ろの筋肉をゆるめることです。
(3)倒した頭を元に戻します。このとき頭にそえていた手は、頭を戻すのを助けるようにしてください。
出典:松井孝嘉著『1日5分 副交感神経アップで幸せになれる』(朝日新聞出版)
背もたれのあるイスを使用し、深く腰掛けて行ってください。
(1)首の柔軟体操1
首を左右にゆっくりまわします。頭を前方に倒して、まず左からゆっくりと一周させます。続いて右からまわします。この運動を5回繰り返します。
(2)首の柔軟体操2
首筋をしっかり伸ばして顔をゆっくりと右に向けます。このとき体は正面を向いたまま動かさず、左肩を軽く後ろに引きます。そのあと顔を正面に戻します。これを5回、繰り返します。
続いて先ほどと逆の動きをします。顔をゆっくりと左に向けます。体は正面を向いたまま動かさず右肩を軽く後ろに引きます。この運動も5回繰り返します。
(3)首の後ろの筋肉をゆるめる体操1
両手を組んで後頭部にあてて、頭をゆっくりと後ろに倒します。 倒した状態で5まで数えて、ゆっくりと頭を元に戻します。この運動も5回繰り返します。
(4)首の斜め後ろの筋肉をゆるめる体操
右手を右の耳の後ろにあてて頭を右後ろにゆっくりと倒します。
倒したまま5まで数えてゆっくりと元に戻します。手は戻す運動を手助けるようにします。この運動も5回繰り返します。
(5)首の斜め後ろの筋肉をゆるめる
今度は左手を、左耳の後ろにあてて、先ほどの反対側である左後ろに倒していきます。倒したまま5まで数えて、元の位置に戻します。この運動も5回繰り返します。
(6)首の横の筋肉をゆるめる
右のこめかみの上あたりに右手の第2、3、4指をあて、頭を右肩の方に倒します。倒したまま5まで数えてください。ゆっくり戻します。このときも、そろえた手は、戻す手助けをしてください。
次に、左側も同じようにします。左右5回ずつ行ってください。
(7)首の斜め前の筋肉をゆるめる
左の額に左手の第2、3、4指をあてて、頭を右肩の上に倒します。次にそのまま頭を左へまわしてできるだけ、右耳を胸骨に近づけます。
このとき顔は左上方を向いています。この状態で5まで数えて、頭を右肩の上に戻します。そのあと、首を立ててまっすぐ正中(正面:体の左右の真ん中のライン)に戻します。左側も同じようにします。右手の第2、3、4指を額の右側にあて、左肩の上に頭を倒し、左耳が胸骨に近づくように首をまわします。左右5回ずつ行ってください。
(8)整理運動
(3)→(2)→(1)の順番でもう一度行ってください。
マフラーやネッククウォーマーで首を冷やさない、ホットタオルで首を温めること。夏場もエアコンの効いた室内ではショールを利用するのを勧める。
入浴もいい。ただ、半身浴よりも全身浴がいいそうだ。
首のマッサージはNG!むやみにもまない
首がこると、首をマッサージするなどしてもんでしまいがちだが、かえって症状を悪化させるおそれがあるという。
「肩こりは、いくら肩の筋肉をマッサージしても問題はありません。しかし首の筋肉は、副交感神経がからんでくるので、マッサージをすると直後はよくなったような気がしますが、翌日になると、マッサージを受ける前より悪くなることが多いのです。マッサージの学校にも、そのことを教えようと思っています」
首コリ予防法
ステイホームの中、ぜひ次のことを心がけて、首こり予防に努めよう。
●目線とディスプレイの高さを調整できるデスクトップパソコンを使用する。
できれば、ノートPCは使わないほうがいいそうだ。
●スマホは目の高さで使う、またはスマホ置き台を使う。
●荷物は交互に持つ。
●長距ドライブでは首休憩をうまくはさむ。
●リラックスできる時間をつくる。
原因不明の全身倦怠・疲れは「器質的疾患」
これまでは、「原因不明で体がだるくなり、何もする気が起きなくなる。さらに夜寝ても、朝、体がだるく、起きにくい」という症状は、原因がわからなかったという。そのため、治す方法もなかった。しかし松井博士の長年の研究で、そうした症状は「スマホ・PC病」の中心的な症状であることがわかってきたという。
「企業では首こりに悩まされて、原因不明の疲れからうつになりかけの人、うつ病と診断されて苦しむホワイトカラーの会社員が少なくありません。『首こり→疲れやすい→全身疲労(朝、起きられず、出勤できない)』という経過をたどり、『うつ病の診断→休職』。休職後、完治しないまま職場復帰し、再発したり、退職せざるを得なくなるケースも見られます。企業の生産性にも影響し、患者さん本人も大きな苦痛です。疲れやすいけれども原因がわからないと悩む人は、首こりが原因の可能性が非常に高いのです」
「首の筋肉の異常で起こる症状は、頭痛、めまいが代表であると私は今まで教えてきました。しかし、これ以上、大事な症状があることに、たくさんの病例の試験を重ねるごとに感じてきたのが、『原因不明の全身倦怠・疲れ』です。これが精神症状を起こす原因になっていることがわかってきました。精神科医の理論は逆であることが明確になってきたのです。
原因不明の疲れは、今から30年前に、アメリカでエイズに次ぐ第二の国民病として国をあげて研究されてきておりますが、未だ、原因も治療法もわかっていません。私のところでは30年前にこの慢性疲労症候群は原因も解明して、全完治できるようになっており、アメリカをはるかにリードしております。セルフチェックするのは、私の作った30問の問診です」
原因不明の疲れ・だるさは器質的疾患。重症化しなければうつ症状は出ない。この理論に基づき、東京脳神経センターでは東大医学部出身の脳神経外科医・神経内科医を中心とした10名以上の医師団が、自律神経の治療(低周波治療)を施しているという。そのため、抗うつ薬の副作用や”薬漬け”など、薬に関するさまざまな問題から患者は解放されているという。
もし精神的な面で悩んでおり、一向に解説しないという場合には、一度首こりを疑ってみることも必要かもしれない。気になる場合は、松井博士の考案した問診票でセルフチェックしてみよう。
【参考】首こり病(頚神経筋症候群)問診票
取材・文/石原亜香利