米WhatsApp、情報保護方針の変更延期 利用者流出で
【シリコンバレー=奥平和行】米フェイスブック子会社で世界最大の対話アプリを運営する米ワッツアップ(WhatsApp)は15日、2月8日に予定していた個人情報保護方針の変更を約3カ月延期すると明らかにした。同社の説明が不十分だったことなどにより利用者の間で「チャットの内容を盗み見られる」といった不安が広がり、競合サービスの利用が急増していた。
公式ブログを通じて5月15日に延期すると説明した。「最近の(方針の)更新について大きな混乱が生じている」と述べ、「プライバシーや安全に関する誤解を解消し、利用者が時間をかけて評価できるようにする」としている。
ワッツアップはフェイスブックが2014年に買収し、世界で20億人超が使っている。日本の「LINE」などに位置づけが近く、インドやブラジルといった地域で人気が高い。無料で広告も掲載しない一方、電子商取引(EC)や決済の基盤としての活用を進めている。こうした戦略に沿い、1月上旬に個人情報保護方針を変更すると公表した。
具体的には、対話アプリで消費者とやり取りした企業がフェイスブックのほかのSNS(交流サイト)を通じて広告を出しやすくすることを狙い、サービス間で利用者の電話番号などを共有すると通知した。高度な暗号化の技術の利用は継続して「個人間のやり取りには影響しない」(同社)としているが、意図が十分に伝わらなかった。
米国ではトランプ米大統領の支持者が連邦議会議事堂に乱入した事件を受け、フェイスブックや米ツイッターなどがトランプ氏本人や支持者による利用を制限した。こうした事情も重なり、ワッツアップの創業者が立ち上げた「シグナル」やロシア発の「テレグラム」といった競合サービスに利用者が流れる動きが目立っている。
米調査会社のセンサータワーによると、シグナルのダウンロード数は10日前後から米国や欧州、中南米などで全アプリ中首位となり、15日にはサービスが一時中断した。運営団体は同日、「今週は記録的なペースでサーバーを追加しているが、今日は利用がもっとも保守的な見積もりを上回った」と説明した。
ワッツアップを巡る騒動の背景にはフェイスブックが16年の米大統領選で混乱を引き起こし、いまだに多くの利用者が同社のプライバシー保護体制に厳しい視線を向けている事情がある。また、欧州で一般データ保護規則(GDPR)が施行されるなど、各国で企業に対応の強化を求める法整備が進んでいることも影響している。
個人情報を扱う企業は消費者への説明を強化する必要性が高まり、ワッツアップの今回の方針改定もこうした流れに沿ったものだ。ただ、個人情報保護方針を記した文書は難解なことが多く、利用者は意図やこれまでの経緯を十分に理解できなかった。消費者の意識が高まるなか、自社の取り組みをどう分かりやすく伝えるかは多くの企業の課題といえる。