保育士の大量退職の実態 事故も増加「この人数では責任持てない」 待遇改善と情報公開が急務
「この人数では責任を持てない。大事な命を預かる自覚をしてほしい」-。首都圏のある私立園。今年3月末、同僚の保育士の急な退職によって配置基準ぎりぎりの状況に陥り、残った保育士たちが運営会社に増員を要求。20代の女性保育士が涙を流して訴えた。
川崎市内で現役保育士として働く五味佳孝さん(31)は「以前在籍した保育園は、仕事量が多いのに長年勤めても給与が上がらず、先輩たちが『これでは家族が持てない』と次々辞めていった」と明かす。その姿をみて自分も辞めた。
乏しい人員態勢や、不慣れな人による保育は、園内の事故につながりかねない。保育所や幼稚園などでの事故件数は右肩上がりで増えている。専門家からは人手不足で現場に余裕がなくなっていることも一因との指摘がある。遊具や散歩で通る園周辺の道路状況に慣れるのも一定の時間がかかり、不慣れな保育士が増えればその分、危険は増す。
保育問題に詳しい名城大経済学部の蓑輪明子准教授は「無償化で保育ニーズが高まれば保育士不足はもっと深刻化する」と指摘。「親が子供を安心して預けられるようにするためにも、保育士が安定して働ける賃金は必要」と話す。
一方で、退職状況など基本的な情報が知らされていない問題は深刻だ。
今回のアンケートでも文京区や杉並区などで大半の保育士が一度に代わってしまった例があったが、どこの園なのか公表されていない。大量退職の理由も詳しく調査していない区が多いのが現状だ。
本来は保育園自体が情報公開するのが望ましいが、自ら公開しているところは少ない。米沢好史・和歌山大教授は「保育士の離職は重要な情報なのに園が最も隠したいもの」として保育園任せの限界を指摘。厚生労働省や自治体が責任持って関与するべきだと主張する。保育園ごとの退職状況を調べ、区のウェブサイトでだれもが見られるようにしている世田谷区の例もあり、国と自治体の責任は大きいといえる。
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