フォーマット戦争と消えたBlu-ray 3D、そして配信へ。AVの20年と“その先”
――VHSテープなどのアナログ時代から、デジタル化によって画質・音質は大きく向上。映画などをDVDで購入・レンタルするライフスタイルが一般化していった。一方で、それを記録する光ディスクの“次世代フォーマット”を巡っては、HD DVD VS Blu-rayのフォーマット戦争も勃発した。
西田宗千佳氏(以下、西田):僕が初めてフラットパネルのテレビを買ったのがちょうど2001年頃。日立の32型で、まだ「Wooo」じゃなかった頃のモデル。偶然にも、ちょうどAV Watchの誕生と同時に私もデジタルAVの話を書くようになったんですね。突き詰めると'98年にスカパー! に加入したタイミングだと思うんですけど。
日立の世界初32型プラズマテレビ「W32-PD2100」とBSデジタルチューナ内蔵型「W32-PDH2100」の2機種が2001年4月に発売された日立、世界初の32インチプラズマテレビを発売(2001年2月)
それまでのアナログAVにはあまり興味がなくて、オタクの嗜みとして、ビデオデッキは2台持ってたし、レーザーディスクも持ってたけれども、品質に超こだわっていたかというと、そうではなかった。どちらかというと、アーカイブがしたかったというだけで。
「デジタルの映像ってすごいな」と思い始めたのが、スカパー! に加入した頃だったと思うんですよ。「チャンネル多いってこういうことか!」と思ったのと同時に、「そういえばこれって『MPEG-1』ってヤツでやってるんだよな」と、PCとの接点が頭の中で繋がったのがちょうどこの頃でした。
そしてその後に、当時出始めだった日立の32型プラズマテレビを購入。「薄型パネルで映像を観るってこういうことなんだ」と理解できたのがまさに2001年でした。
ゲーム機の取材はその前からしていましたが、あくまでコンピューターとして扱っていたので、ちょっと方向が違ったんですよね。
“多チャンネル化やEPG(電子番組ガイド)、デジタルで映像がたくさん観られて、パッケージメディアも持っていて”といった薄型テレビの価値や、映像・音楽のデジタル化によって生まれた便利さが体感できた年だったと思います。おそらくAV Watchができたのも、同じような経緯からですよね。
AV Watch前編集長 臼田(以下、臼田):そうですね。インプレスのWatch系媒体はIT、PC系から始まっているので、当時家電のデジタル化が叫ばれる中で、AVに関してもデジタル化に伴い、PCのように半導体を取り込んで……というような流れができてきて、PC Watchから分離する形で、2001年にAV Watchが立ち上がりました。
デジタル化に伴い、西田さんのようにPC分野で活躍していた著者さんが、オーディオ・ビジュアルや家電などに取材の幅を広げていくという例も結構多かったですよね。特にコンテンツが好きな人は、ハードウェアや環境がPCなどに近づいてくるような流れがあったと思います。
西田:そうですね。映像よりも先に音楽、「CDをリッピングする」という流れがこの頃に来たじゃないですか。ただ、CDをリッピングして聴く、音楽を買って聴くというのが当たり前になるまでは、実は光ディスクがデジタル化して、テレビがフラットパネル化するよりも時間がかかったと思うんですよ。
テクノロジー的には2000年代前後には、CDをリッピングしてMP3にして聴くって割と当たり前になってきたんですよね。でも、まだ普通の人のものではなかったですよね。
臼田:その頃だと「パソコンを使える人」がまだ限られていましたね。また、「CDをリッピング」っていうのもまだ「できる人にはできること」で、ちょっとダークな“してはいけないこと”といった印象もあったかもしれません。
ただ、パナソニックやソニーがデジタルに関わってきて、「もっと広くに普及するぞ!」という期待が高まっていたころですね。BSデジタル放送も2000年スタートですし、あらゆるものがデジタル化するのは見えていましたが。
西田:そもそも「リッピング」というワードがちょっとダークでしたね。
AV Watch編集長 山崎(以下、山崎):普通は「ダビング」でしたもんね。
西田:「ハッカーコミュニティ」と「テックコミュニティ」みたいなギークな言葉の使い方って部分もあるんですけどね。
臼田:「ちょっとハックして自分が得してしまう」みたいなニュアンスがありましたね。マニアとしては、そこが面白いというのが1つの盛り上がりポイントだったかもですが。
西田:最近はもう、誰もMP3エンコーダーの話ってしないじゃないですか。どのエンコーダー使うのがいいの? みたいな話もなくなって、「まだMP3使ってるの? Oggじゃないの?」とか。行為自体が楽しかった時期だからっていうのはあるかもしれないですけどね。
山崎:2000年代はMDのダビングが一般化しなかったじゃないですか。オーディオ好きや一部のマニアはMDを使ってるけど……って感じでしたけど、この頃って一般の人はCD-Rとかでしたっけ?
西田:おそらく2つパターンがあって、レンタルCDから全く編集しないでMDに落としている人と、CDを購入してそのまま使う人が増えてきてた。ポータブルCDプレーヤーがすごく安くなって、それにヘッドフォンを繋いで聴くという時代がそこそこ長くあって、一般の人はまだそうだったんでしょう。CDたくさん入れるケースとか持ってましたもんね。家を出るときに「今日はこのパック」みたいな感じで選んでた記憶があります(笑)
臼田:AV Watchの記事でも「CDチェンジャー」って2004年くらいは人気の商品でしたね。
山崎:ミニコンポの上に、デカくて回るチェンジャーとかついてましたね(笑)
臼田:海外輸入で100枚入るカードリッジのやつとか、ありましたよね。
2004年発売の松下電器産業コンポ「SC-PM700MD」。5CDチェンジャーを搭載している2007年発売の松下電器産業のミニコンポ「D-dock SC-PM770SD」。SD/SDHC対応のカードスロットと、5枚のCDチェンジャー、MDデッキ、FM/AMチューナを内蔵松下、CDからMDへ6倍速録音が可能な5CDチェンジャ搭載コンポ(2004年3月)
松下、D-snapやBluetooth機器と連携する「D-dock」(2007年4月)
山崎:カーオーディオにも5、6枚突っ込んでガチャガチャやるやつとかありましたね。
西田:結果的に“みんなストレージに入れちゃえば一緒じゃん”となるまで、自分が聴きたい曲に自動的に切り替えるというのが大切な時期が続いたんですよね。
同じような話で、ビデオデッキやレーザーディスク、ゲーム機、CSチューナーの映像を切り替えてテレビにアナログ入力するための「スイッチャー」がまだ元気だったのもこの頃くらいですよね。うちにはわざわざ高いマトリックス形式のスイッチャーを入れてましたからね。
それも今はもはやスイッチングしないですよね。テレビに付いてるHDMIで十分で。デバイスの中で映像と音楽とゲームとが切り替わる時代が来ちゃったので、ディスクを含めて、物理的に入れ替わるものが残ってた最後の時代がこの頃ですよね。
そして、DVDではアナログ時代からさほど画質が上がらないからといって“次世代ディスク”が来るんですよね。