新型コロナの療養中に測定する酸素飽和度は、何%あれば安心か?
酸素飽和度とは
「パルスオキシメーター」という指にはさむ機械を使って、体の血液の酸素飽和度を測定することができます。空気中から酸素を体の中に取り込めているかどうかを見るわけです。
血液の中には、酸素を運搬してくれる「赤血球」という運び屋がいるのですが、赤血球の中にある「ヘモグロビン」というタンパクが酸素と結合することが重要です(図1)。ヘモグロビンの何%が酸素とくっついているかを見るのが「酸素飽和度」です。指に挟む機械でなぜ簡単にこれが分かるのかというと、爪という窓を通して毛細血管の色の変化などをみているのです。すごい技術ですね。
さて、酸素飽和度の正常値はどのくらいでしょうか?
日本呼吸器学会(1)によれば、96~99%が正常値とされています。100%になることはあまりなくて、過呼吸になって呼吸数がはやい人くらいにしか起こりません。
診察室高血圧の基準値が収縮期血圧140mmHg以上とされているのと同じように、基準値を少しでも外れたら即座に異常というわけではありません。運動した直後に血圧を測ったら高く出ますし、141mmHgだからといって「私は高血圧なんだー」と思い悩む必要はありません。
これと同様に、少し歩いた後に測定すれば酸素飽和度は93~95%くらいになることもありますし、96%を瞬間的に下回ったからといって即座に異常という判断にはなりません。私も外来中にマスクを装着して患者さんと話していると、93%くらいまで低下することがありますので・・・。
新型コロナの中等症Iの基準は「酸素飽和度96%未満」とされていますが、上記の理由から、個人的にはやや保守的かなと感じています。やはり肺炎があるかどうか、呼吸困難が強いかどうか、といったほうが重要です。
ただ、いかなる場合でも医師が容認できないラインが90%です。このラインを切ってくると「呼吸不全」と呼びます。これは間違いなく異常です。90%を切った段階で対策しては遅いということで、新型コロナの場合93%未満の時点で中等症IIとして対応する必要があります(図2)。
第5波で医療逼迫が表面化するまで、東京都は酸素飽和度96%未満を入院対象としていました。確かに酸素飽和度の正常値は96%以上なので間違いではありませんが、先ほど書いたように健康な人でさえも93~95%くらいになることが往々にしてあります。そのため、わずかな低下を過剰に拾い上げて軽症の患者さんを入院させてしまうよりも、呼吸困難が強い例や90~93%未満の例にしぼって入院していただくのが、現実的な落としどころなのだろうと思います。
それでも病床が逼迫するならば、自宅で酸素を吸入していただく必要があります。
■参考記事:新型コロナ自宅療養中に酸素吸入が必要になったら(URL: https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20210808-00252121)
なぜ酸素飽和度が低下するとよくないのか?
心臓や脳などの臓器に影響が出るためです。酸素飽和度が90~93%を下回ったからといって、その瞬間に心臓や脳がやられるわけではありません。100メートルを全力疾走すると酸素飽和度は低下しますが、運動選手はゴールした瞬間に倒れるわけではありません。その状態を放置することが問題で、長時間酸素飽和度が低いと、健康に悪影響がおよぶリスクがあります。
息切れ、頻脈、不整脈を起こしやすくなり、ひどい場合昏睡状態に陥ることもあります。
早とちりに注意
パルスオキシメーターは、脈拍と酸素飽和度(SpO2)の2つの数字が表示されます。これらの数字、非常に似通っており、見分けにくい機種が存在します(図3)。
「脈拍80回/分、酸素飽和度95%」だったのに、「酸素飽和度80%、脈拍95回/分」と逆に解釈してしまった事例もあります。
また、指にはさむと数秒で酸素飽和度の数字が出てきますが、直近の数秒間の平均値を秒ごとに更新していく仕組みになっているため、測定し始めた瞬間は数値が低くなることがあります。私の外来でも、パルスオキシメーターを装着した瞬間85%になって、患者さんが「え!こんなに低いの!?」とビックリすることがあります。安静にしていると、どんどん数値は上昇してきます。そのため、脈拍が安定する20~30秒後の酸素飽和度の数字を見るようにしてください。
そして、新型コロナにかかって高熱があると、見かけよりも酸素飽和度が低下することがあります。新型コロナの熱と分かっているなら、個人的には積極的に解熱鎮痛薬を飲むべきと考えます。
また、下記の記事でも書きましたが、①手が冷たい、②爪の病気、③ネイル・マニキュア、④パルスオキシメーターが粗悪品、などの条件では酸素飽和度の数字に信頼がおけないこともありますので注意してください。
■参考記事:コロナ禍で大売れ(URL: https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20210524-00236880)
(参考)
(1) 日本呼吸器学会. よくわかるパルスオキシメータ