Disney+、プラットフォームがぼろぼろで困惑
Netflixキラーのはずが、自爆気味。
ディズニーはその動画ストリーミングサービス「Disney+」に関して、多くの期待をあおってきました。サービスが立ち上がった今、特にコンテンツに関しては、その期待は満たされています。でもサービスは不安定で混乱が目立ち、バグだらけです。
鳴り物入りでスタートしたDisney+が訴求してきたのはコンテンツの素晴らしさだけでなく、1週間の無料トライアルや、Verizonユーザーの1年間無料化といった料金面でのハードルの低さでした。アクセス集中は予想できそうな気がしますが、案の定Disney+のサービスが始まるやいなや、不具合やエラーメッセージの報告が次々とあがってきました。ディズニーいわく、需要が「我々の高い期待をも超えていた」そうです。ユーザーがアカウントにログインできなかったり、ログインしても検索結果がおかしかったり、カスタマーサポートがつながらなかったりしました。
予想を上回るアクセスがあったにしても、ものすごい需要があることはディズニーにはわかっていたはずです。ユーザーを増やすべくプロモーションしてきたのは、彼ら自身です。1年間無料で使えない人でも、もともと手頃な7ドル(約760円、またはESPN+と広告ありのHuluをバンドルした13ドル、約1400円)の月額費用をさらに安くする方法が他にもありました。そしてコンテンツは言うまでもなく充実していますが、そこにアクセスできないんじゃどうしようもありません。
ディズニーはNetflixの強力なライバルを立ち上げるのにふわさしい道具と時間と資金を持っているはずですが、そのわりにはずいぶんやっつけで、生煮えのサービスを作ってしまったように見えます。
いろいろとおかしい
バグはほぼサービス開始直後から始まってました。ローンチの朝、多くのユーザーがDisney+にアクセスしようとして何回もクラッシュしていたことがわかっています。Webでもスマホでも、XboxでもRokuでもPS4でも、その他ほぼすべてのデバイスでクラッシュしていました。アクセス集中で不具合が出るのは別に前代未聞じゃありませんが、「サポートに連絡してください」みたいなメッセージを見てDisney+のカスタマーサポートにアクセスしようとしても、そっちもつながらない、みたいな声がRedditに次々あがりました。
米GizmodoからもDisney+のカスタマーサポートにコンタクトしようとして、電話が2回切れました。3回目に電話したときは37分待って、結局こちらから切りました。Webにあるサポートのチャットボックスの待ち時間は30分以内ということでしたが、40分待っても返事がありませんでした。
まあアクセス集中で待ち時間が伸びるのも、7月にマジックキングダムの「七人のこびとのマイントレイン」に長蛇の列ができるようなもので、ありがちな事態ではあります。でもDisney+とそのサポート体制が、第1週目のプライムタイムに耐える準備ができてなかったのはほぼ明らかです。自分で数千万人もいるVerizonユーザーに1年間無料をバラまいておきながら、「こんないっぱい来たの!?」って言ってる感じです。
ちなみにVerizonもこれを受けてサポートのウェルカムメッセージを変更し、Disney+関連の問い合わせに対応する内容にしましたが、電話してもつながりませんでした。Disney+のカスタマーサポートはローンチ翌日の日中にもまだ激混みで、1時間以上待たされました。
Disney+のもうひとつの問題は、デバイス連携がうまくできないことです。スマホやタブレットで使える機能が、Webでは使えなかったりするんです。たとえばWebでは複数ユーザープロフィールを追加できなかったんですが、iOSアプリではできて、でもそのプロフィールがWebサイト側では表示されない、といった具合です。いったんログアウト・ログインしなおすとほとんどは表示されたんですが、ストームトルーパーであるはずのアバターのひとつが、黒い丸になっていました。iPadから見れば全部問題ないように見えたんですが、デバイスを変えるとアバターが出たり消えたりしました。ユーザープロフィールにアニメのキャラクターを選べなくても使えないわけじゃないんですが、こういうバグが次々出てくる状態が、サービス全体に無数の不具合があるんだろうな…感を裏付けていました。
アバター以外でも、いろんなものが本来あるべき場所や見え方で出てきません。パソコン版で右上にあるドロップダウンメニューの枠の部分があるとき消えて、ユーザープロフィールのアバターがコンテンツ選択の上に浮かぶ状態になっていました。動画のクレジットを流すウィンドウがおかしくなって、何らかの警告メッセージらしきものを表示していました。でもこれくらいはまだマシなほうで、中にはもっと深刻な、たとえば完全にロックアウトされたとか、クラッシュして何回もアプリを再起動させられたといった症状を訴える人たちもいます。
仮にバグがなかったとしても、そもそも機能的に競合サービスに比べてイマイチって話もあります。特に検索が最弱で、微妙に間違ったキーワード、たとえば「Mandalorian」じゃなく「mandloran」とか、「Marvel」じゃなく「mrvl」と入力すると、検索結果はゼロでした。でも「marvl」だと「Marvel」のことだと理解してくれたりしました。
ちなみにNetflixは、いろんなミススペリングに対応しています。あと「natgeo」や「nat geo」では、「National Geographic」だとわかってくれませんでした。このくらいの一般的な略し方に対応してないってことは、Disney+で作品を探すときはかなり正確な単語を入力しないといけなさそうです。
表記ゆれの理解力が低いってことに加えて、検索結果の中にかなり謎なものが混ざってきます。米Gizmodo読者の情報によると、「bitch」(売女)で検索すると女性が主人公のタイトルがいくつか出てきたのに加えて、英国のダイアナ妃に関するNational Geographicのドキュメンタリーが表示されたそうです。Disney+に検索機能について問い合わせてみましたが、まだ回答は得られていません。(下の「bitch」での検索結果には、「witch」(魔女)を含むタイトルも入ってきてますが、『Diana: In Her Own Words』を含めていくつかのタイトルには「bitch」も「witch」もそれに似た単語も入ってないようでした。)
コンテンツはほぼ期待通り、ただ…
Disney+のサービス限定の作品は比較的少なめですが、その最大の目玉はスター・ウォーズシリーズの『ザ・マンダロリアン』で、これだけでもインパクト十分です。ディズニーには数十年にわたってヒット作を作り続けてきた制作力があるので、ひとつひとつの独自作品のクオリティを高められることでしょう。Disney+はいわばNetflixのアンチテーゼで、ほとんどが自社コンテンツ、かつほとんどがとても良質なのです(最近のNetflixはだいぶオリジナルが増えてますが)。
ディズニー映画を見るつもりなんか毛頭ない人でも、MarvelやPixar、スター・ウォーズシリーズ、National Geographicのコンテンツがあれば、月7ドルの料金には納得できることでしょう。ディズニー配下のコンテンツにはレンタル不可のものも多く、それらを見るにはたいてい15ドル(約1,600円)ほど払って買う必要があります。
Marvel配下でもたとえば『Deadpool』みたいな、R指定のきわどいものだと、ファミリーで見られるコンテンツにこだわるDisney+では見られません。その手の大人向けコンテンツは、13ドルのDisney+とESPN+、広告ありHuluのバンドルに申し込めば、Hulu上で見ることはできます。そしてHuluでは、Disneyが買収したFox配下のFXのコンテンツも見られるようになる予定です。
それからDisney+のコンテンツカタログには、文句なしの人気作や名作もありますが、時代の変化でアウトになってしまった表現を含む作品もあります。人種差別的だったりで問題があるシーンは、Disney+でストリームされるときには削除されるようです。クラシックな「名作」とされるものでも、たとえば『ダンボ』や『Lady and the Tramp(わんわん物語)』には現代から見ると差別的な表現が入ってるんですが、これらには「この作品は制作当時の内容で提供します。時代にそぐわない文化的描写を含む可能性があります」という注意書きが入っています。
Disney+では30シーズン分の『ザ・シンプソンズ』も見られるんですが、これにも若干問題があったようです。ファンによれば、Disney+では画面の上下をワイドスクリーンに合わせて切り取っていて、そのせいでジョークの一部も切れちゃってたそうです(ザ・シンプソンズの絵がクロップされたのも前例ありですが)。以下の場面では、画面上のパイプが切れてるせいで、「LITEもDRYも全部同じものなのにね」ってことが見えなくなっちゃってます。
https://twitter.com/TristanACooper/status/1194298167824650240さらに一部のコンテンツは完全になかったことになっており、マイケル・ジャクソンが声で出演している1991年の「Stark Raving Dad」の回がDisney+のカタログには入っていませんでした。この回は、マイケル・ジャクソンの小児性愛疑惑を取り上げたドキュメンタリー『Leaving Neverland』が放映された後、DVDボックスセットや他局への番組販売、ストリーミングからも除外されてはいました。
でもこういう例外を除けば、Disney+のコンテンツは基本的に充実しています。そりゃディズニーなんだから充実してるに決まってて、Disney+に入ったらどういうものが見られるのかは(たとえばApple TV+と違って)だいたいわかってます。でもストリーミングサービスに求められるのは、コンテンツの充実だけじゃありません。意図された通りにサービスが使えなければ、イライラするだけです。Disneyには最高のプロダクトをローンチするためのリソースがすべてそろっていたはずで、生煮えのサービスをあわてて出す必要はなかっただろうに、どうしてこうなっちゃったんでしょうか…。
不具合修正で真のベストになれるか?
それでもDisney+のウリ文句は、良さそうに聞こえます。1契約あたり最大10デバイスへの無制限のダウンロードが可能で、4K・HDRで視聴でき、最大4デバイスでの同時ストリーミングができます。言い換えればDisney+は、Netflixが有料オプションにしている多くの機能を標準で提供しているんです。コンテンツのダウンロードもシンプルで、アプリの中で見つけるのもすぐでした。
ただDisney+には、サービスを一段高める便利な機能が欠けています。Apple TV+もそうですが、Disney+にはユーザーがあるコンテンツを好きかどうかを選択することでおすすめの精度を改善する機能がありません。「あなたへのおすすめ」セクションはあるので、個人の好みを入力できるようになればアルゴリズムが吐き出すものを改善できるはずです。たとえばミュージカルを生理的に受け付けない人もいると思いますが、それがおすすめに入ってきた場合、「好きじゃない」ボタンがあればすぐ消せます。でも現状のDisney+にはそんな機能がないので、気に入らないコンテンツが出てきたら、消えるまでにかなりの時間を要すると思われます。
米Gizmodoでは最近ベストなストリーミングサービスランキングを作って、Disney+と広告ありHuluなどの13ドルのバンドルを「オールラウンドなベスト」と言っちゃったんですが、これはコンテンツに関しては今も正しいと思います。でも本当にベストと言い切るには、Disney+はプラットフォームの修正が必要です。彼らの持つリソースやコンテンツの豊富さ、他のストリーミングサービスへの優位性を考えれば、Disney+は必要な対応をやりきって、真のベストになりうると思います。
そんなわけで、初動の困惑はいつまでも続かないかもしれません。ソフトウェアにバグはつきもので、修正は可能です。ただ、ディズニーにはローンチ前にベータテストして問題を取り除くための時間もお金もあったはずで、どうして今回みたいに明らかに作りかけみたいなものが出てきてしまったのかは謎です。新しいストリーミングサービスを打ち出すことが、まずは目的になっちゃってたのかもしれません。
まとめ
・Disney+は頻繁にクラッシュし、不安定で、ものすごくバギーです。
・検索機能も危なっかしいし、表示される結果にも妙なものが入ってます。
・デバイスによってできること、できないことが違ってることがあります。あるデバイスで設定したことを他のデバイスで見るまでに何回も再起動させられたり、といったことです。
・ひとつの契約で最大10デバイスでの無制限のダウンロード、4K・HDRでの視聴、最大4デバイスでの同時ストリーミングが可能です。
・コンテンツは充実してますが、それにアクセスするまでが一苦労かもしれません。
Source: Insider、The Verge、Thrillist、Reddit、Slate(1、2)、CNBC