ノイズ対策の新常識:アース対策の基本をおさらい!仮想アース導入のメリットは?
■なぜオーディオ再生においてアース対策が必要なのかデジタル時代のオーディオのノイズ対策についてこれまで考えてきたが、ラストは “アースを取る” だ。アースは英語のearthで「地球」の意味だが、一般的な意味では、「アースを取る」と言えば地面に接地させる、ということになる。洗濯機や冷蔵庫、トイレのウォシュレット、電子レンジなどの電源ケーブルのプラグからは緑色の線が出ていて、取扱説明書には壁コンセントなどのアース端子に接続するように書かれている。その役目は、それらの金属製のボディに漏電した場合でも感電しないように、漏電した電気を地面に逃がす目的のものだ。パソコンや家電機器などの電源ケーブルからは緑色のアース線が出ているが、こちらは漏電した際に人体を保護するためのものオーディオでもアースを取る、ということが行われる。しかし、基本的には漏電対策ではなく、たとえ3Pの電源ケーブルが付属していたとしても実はアース端子は浮かせてある(コンポーネント内部で接続していない)場合も多い。アースを取ると、どういう考え方でノイズ対策になるのか。いろんな説明の仕方があると思うが、ここでは波形編集ソフトの波形から説明してみたい。オーディオの波形を、波形編集ソフトなどで見たことがあるだろう。たとえばクラシック音楽の波形は上下にゆとりがあるとか、ある種のポップスはコンプレッサーがかなり強くかかっており、真っ黒な帯のようになっているとか(いわゆる海苔波形)。波形の横軸方向は時間の経過を表現し、左から始まって、右に時間が流れていく。縦軸は電圧で、デジタル信号として大きい音量の限界に近づくほど、上下の隙間はなくなっていく。iZotopeのオーディオエディターで音楽波形を見たところ。上がLch、下がRchで、縦軸が電圧、横軸が時間となる。それぞれの中央のラインが電位0V(=音量ゼロの状態)となる波形はステレオであれば2段になっており、上側が左ch、下側が右ch。それぞれの段には中心の線があって、そこから波は上に行ったり、下にいったりしている。これがCDプレーヤーやネットワークプレーヤーを流れる音楽信号の形であり、それを増幅したものがスピーカーを駆動する。ここで重要なのはその中心の線だ。もしも音が波の形にならず、中心の線と同じところにしかいないということは、音量ゼロを表現している。電気的にいうと、この中心線の位置が電位ゼロの意味。たとえばフェイドアウトしていく音楽の場合、波の上下の振幅が徐々に低くなり、最後は中心の線と一緒になる。もしも、この中心線、つまり電位ゼロの位置がズレていたらどうなるだろう。無音状態のはずがそうなっていないのだがら芳しくない。そのためにコンポーネント、たとえばCDプレーヤーの中では、デジタルパートの電位ゼロの位置と、アナログアンプ部の電位ゼロの位置を合わせるように筐体(シャーシ)の金属に“グラウンド”を落としている。グラウンドは英語のgroundで「地面」とか「土」の意味。コンポーネント内の電位ゼロを合わせるのがグラウンドに落とすということ。複数のコンポーネントの電位をゼロを揃えることが、オーディオにおける「アースを取る」意味である、としてもいいかもしれない。■電位ゼロは狂いやすく、再生音に影響を与える実はこの電位ゼロという状態は、意外と狂いやすい。たとえばアナログプレーヤーが一番イメージしやすいが、レコードの音ミゾとカートリッジが接触しつつ、盤は回転しているので、ここでの摩擦から静電気が発生する。この静電気のせいで、電位ゼロがズレてしまうのだ。これが音を悪くするし、パチッというノイズを発生させる。あるいはアンプは電圧/電流増幅をしたり、整流するなどの働きをしているが、どこかで電気を使うことによって音楽信号の電位ゼロが揺らいでしまう。もちろん、そのためにいろいろと工夫はされているのだが、なにしろ話は音に関係してくることなので、ごくごく微細なズレ方でも再生音に悪影響を与える。では、アースを取ろうとして、たとえば洗濯機のコンセントを挿してあるコンセントのところにあるアース端子に、アンプのボディから取ったアース線をつなぐとノイズが減るかと言うとこれがなかなか難しい。特に都会のマンションの一室というような条件だと、残念ながらノイズが増える場合の方が多い。アース線がアンテナ的に働いて、空中を飛び交う電磁波を拾ってしまうのだ。洗濯機など水回りの電化製品はアースの接続が必須だが、このアース端子にオーディオ製品をつないでも、逆に悪い影響を与えてしまうこともあるあるいは、一戸建ての1階にオーディオの置いてある部屋があり、アース線の先を地面に刺さっている銅のクイに繋げるやり方はどうだろう。これも実は簡単ではない。素人工事でアース棒1本を地面に挿してつなげば良いというものではなく、理想的にはクイを何十本も打たなければいけないという話があったり、あるいは地面が乾燥すると音が悪くなるので水を撒くという話も聞いたことがある。■仮想アースの導入で、強制的に電位ゼロを実現そこで推薦したいのが仮想アースの使用だ。オーディオ用にいくつかのメーカーからリリースされている。たとえば日本の光城精工、オランダのアキコ・オーディオ、スウェーデンのエントレックといったところが有名だ。その内部はどうなっているのか。光城精工では銅や真鍮(黄銅)、スチール等の6〜8層程度のプレートによって積層構造を成しているという。金属の表面積を増やすことで、接続したオーディオ機器のフレームグラウンドを安定させるという考え方だ。KOJO TECHNOLOGYの仮想アース「Crystal E」(定価:34,320円/税込)「Crystal E」の内部では、8種類の異種金属をレイヤー状に積み重ねているアキコ・オーディオのファミリー企業の一つは、宝石や鉱物を取り扱っており、そのネットワークを活かし新しい素材やテクノロジーを研究している。テストしたことのある「Triple AC Enhancer」は、カーボンのボディの中に、さまざまな鉱石がミックスして封入してあるようだった。AKIKO AUDIOの「Triple AC Enhancer」。機器の直近に設置して使用する(オープン価格、市場実売価格は61,600円前後)エントレックは仮想アースのパイオニアとも言える存在で、現行のラインナップとしては「Olympus Ten」「Minimus Infinity」「Silver Minimus Infinity」が揃う。木製のボディの中には、金、銀、銅、亜鉛、マグネシウム等の金属に導電性鉱物を複合した “ミネラルミックス” を採用している。ちなみに筆者はエントレックの製品をふたつシステムに使っているが、今となっては外せないほどの良い効果をもたらしている。Entreqの「Olympus Ten」(オープン価格、市場実売価格154,000円/税込)鈴木 裕氏の自宅で活用されているEntreqの仮想アースというように見ていくと仮想アースの中身は、インピーダンスを低くするための複数の金属や鉱物が使われているという点では、3つのメーカーは大まかには共通しているように感じる。ようするに「地球」というか「地面」の代わりだ。また、そうした内容なので、オーディオマニアが自作できる分野にもなっている。自分で作ってコンポーネントに接続して音を聴き、また改良していくというのは趣味のオーディオとしては大事な要素だ。アクティブに関わることによって、趣味は深くなりつつ、拡がりも出てくる。■アース対策の効果は?最後になってしまって恐縮だが、アースを取って、成功している時の効果をまとめておこう。・SN感の向上・サウンドステージの見通しが良くなる・音像にまとわりつく付帯音がなくなり、その定位やフォーカスが向上する・空間の透明度が上がるし、音自体の安定感が出てくる・味気なさやエグミがなくなる(場合によっては有機的な感じやまろやかさが出てくる)。・低音がしっかりする。包まれるような感じが出たり、押し出しが良くなったり。・総じて、音楽ソフトに入っている音を素直に楽しめるようになる。というわけで、オーディオのそれぞれの電気回路を安定して作動させるような効果をもたらしたり、可聴帯域を超えているところから悪さをしてくる高周波のノイズ成分を除去するように感じさせるのが、仮想アースが成功した時の音だ。付け加えるならば、アース線の素材(銅とか銀とか)や、太さ、撚り方といった構造が音に与える影響が大きいのも特徴かもしれない。まるでインターコネクトを変更したような音の変化が出ることもある。平たく言うと、びっくりするほど音が良くなるし、アース線ごとの音の変化率が大きい。アースケーブルも、音声信号が通らないにもかかわらず、素材や構造などによって大きく音質が変化する。AETの「AIC-EW075Y56」は国産プレミアムバージン無酸素銅を、接続端子にはYラグを採用また、仮想アースはあくまでオーディオの音質対策アイテムであり、漏電の対策用としては使えないことも留意して欲しい。都市部でのオーディオを取り巻く環境は悪くなる一方だ。そのための対策として、新しいジャンルながら新製品が増えていくのも納得できる。だが、何でもやみくもに取り入れれば良いというわけではなく、どのようなノイズ源が悪さをしており、どう対策していくかを順序立てて考えていくことこそ、音質対策の基本となる。この連載が、ご自宅の音質改善に役立てたのならば幸いだ。