シャープ、制裁関税回避のためDynabookの中国生産を見直し
シャープ株式会社は、Dynabook株式会社の中国での生産体制に関して、見直しを行なう考えを明らかにした。
現在、中国・杭州市の自社工場で生産しているPCに関しては、一時的に台湾へと生産拠点を移したあとに、さらにベトナムに生産拠点を移す。米政府は、中国に対する制裁関税「第4弾」として、ノートPCなどを追加関税の対象に検討しており、今回の生産拠点の移行はそれを回避することを視野に入れたものになる。
また、シャープの野村勝明副社長は、「中国での賃金が高騰しているが、シャープには、タイやベトナム、フィリピンなどに拠点があり、これらを活用することができる」とし、PC以外にも中国以外での生産を検討。複合機については、タイでの生産へと移管する考えも示した。
なお、中国のODMを活用したPC生産については言及しておらず、これに関しては、中国国内向けなどに生産を続ける可能性が高そうだ。
シャープの戴正呉会長兼社長は、「中国では、生産のみならず技術開発も行なっている。ブランドの会社として、自らのブランドでがんばっていく」と述べている。
シャープ 会長兼社長の戴正呉氏同社によると、シャープ全体における中国生産のうち、米国向け比率は3.8%。そのうち、ノートPCは、1.2%を占めるという。また、PCという観点だけで捉えた場合には、米国輸出は約10%を占め、月1万台の規模になるという。
Dynabookでは、2018年度には約2割の海外売上比率を、2020年度には50%以上に引き上げる計画を打ち出しており、海外事業の拡大は、Dynabookの成長戦略の柱になっている。
米国においては、「TOSHIBA」ブランドのPCは、長い歴史を背景に高い認知度があるが、は日本でのみ使用していたブランドであることから、米国での認知度が低い。同社では、2019年1月に米ラスベガスで開催されたCES 2019のシャープブースでブランドのPCを一堂に展示するなど、ブランド認知に向けた活動を開始。
さらに、米国市場向けに、プレミアム機を中心とした商品力強化や、サービス事業の展開、シャープとの一体運営などにより、米国市場では、2020年度に、2018年度比131%増の成長を見込んでいる。また、欧州では、2020年度に2018年度比93%増、アジアでは、163%増という高い成長を見込んでいる。
ワールドワイドでの展開なお、Dynabookは2018年10月にシャープが子会社化。2018年度下期に早くも黒字化している。
2018年度のシャープの連結業績は、2018年度の売上高は前年比1.1%減の2兆4,000億円、営業利益は6.6%減の841億円、経常利益は22.7%減の690億円、当期純利益は5.7%増の742億円となり、減収および営業減益だった。期中には2回にわたる下方修正を発表し、計画には未達という結果。鴻海傘下となってから、有言実行を打ち出し、計画達成を続けてきた戴会長兼社長にとっては、厳しい結果となった。
戴会長兼社長は、「予期していなかった貿易摩擦もあり、申し訳なく思っている。だが、最終利益率は、この20年間では最高であった。これからまたがんばっていく。『量から質へ』と転換し、儲からないビジネスは最小化したい」などとした。
米政府によるファーウェイに対する禁輸措置などの影響については、「スマートフォンやルーター、ノートPCなどにおいてビジネスチャンスが生まれる。日本市場において、ファーウェイのシェアを獲得するチャンスと捉えている」とする一方、「ファーウェイにかぎらず、中国企業は白物や黒物家電分野でも相当の補助金をもらっている。日中貿易におけるダンピングであり、中国メーカーは補助金を活用してディスカウントを行ない、市場構造をメチャクチャにしている」と強い言葉で非難した。
なお、戴会長兼社長は、2019年度を最終年度とする中期経営計画までは社長を続けることを明言していたが、会長職については、2021年度まで続投することを明らかにしたほか、社長の後任については、「適任者を探しているものの、現時点では未定」としており、「候補者がいればトレーニングを積み、バトンタッチする。2019年6月に開催予定の株主総会で取締役として承認してもらえれば、1年間は社長を続ける」と語った。
また、親会社である鴻海精密工業の取締役候補になったことについては、「鴻海のステークホルダーに安心を与えるために、鴻海の取締役候補に名を連ねている。2017年には鴻海の全役職を辞めており、すべてシャープのために取り組んでいる。シャープの経営が駄目になると、鴻海グループにも影響を与える」などとした。
鴻海精密工業の郭台銘会長が台湾の総統選への出馬を表明。郭会長の右腕である戴氏の鴻海への復帰が注目されている。