“あっても使わない”のにDVDドライブ搭載ノートを買う日本人
「モダンPCがなぜ重要なのか、それを説明するためには2018年頃に遡ります」。
日本マイクロソフト 執行役員 コンシューマー&デバイス事業本部 デバイスパートナー営業統括本部長の梅田成二氏にモダンPCについて尋ねると、2018年当時を振り返ることから取材はスタートした。
なお、モダンPCによる個人市場訴求という点では、2019年5月に大河原克行氏の「パソコン業界、東奔西走」に掲載された日本マイクロソフト 執行役員常務 檜山太郎氏のインタビューで詳しく説明されている(“モダンPC”訴求で個人向けPC市場活性化を狙う日本マイクロソフト)。
日本マイクロソフトとしてのスタンスはこの時から変化はないので、このインタビューと重なる部分はあるのだが、今回は少しぶっちゃけ気味に、モダンPCというキーワードになぜこれほどこだわっているのかを迫ってみた。
梅田氏が語り出したのは、「2018年時点で明らかになった、日本のコンシューマユーザーの買い替えサイクルはどんどん長引く傾向にある」という事実だった。
念のために書き添えておくと、ここで書いたコンシューマユーザーとは、PC買い換えのさい、PC Watchの読者諸氏に「PC詳しいんでしょ?今はどれを買えばいいの?自分はPCって全然詳しくないから」と相談してくるような方々を指している。要はPCマニアではない皆さんだ。
そういったPCマニアではない方々のPC買い替えサイクルは、2018年時点で長引くようになっていることが明らかになった。
「2018年といえば、2014年4月に終了したWindows XPのサポート終了から4年が経過し、PC需要が上向きになってきても良いと思われる時期でした。ところが、日本市場は、コマーシャル向けは少し上向いていたものの、コンシューマ市場は相変わらず右肩下がり。なんでこんなに落ち込んでいるんだ? と原因究明を進めることになったのです」。
その調査の結果明らかになったのが、日本のコンシューマユーザーのPC買い換えサイクルが長期化していることだ。
「内閣府の調査では7年という数字が出ています。コマーシャル向けはリース期間で5年とされていますが、コンシューマユーザーはPCが壊れるまで買い換えないというケースも多いようです。
かつては新しいOS、新しいCPU発売に合わせて買い換えるという流れがありましたが、Windows 10やCore iシリーズを使っているユーザーは、PCが壊れるまで買い換えないと考える人が多くなっているようです」。
このPC買い換えが長引いていることとともに問題となったのが、日本の多くのPCユーザーが選ぶ製品が、ほかの国に比べて特殊なのだという。
「日本では15型のディスプレイ、DVDドライブ搭載のノートPCが売れ筋となっていました。日本のユーザー向けにメーカー各社が薄い、軽い、タッチ機能を搭載した最新機能のPCを投入しているにもかかわらず、コンシューマ市場では大きな機能変化がないPCの方が売れている。なぜなんだ? と要因を掘り下げてみることになったのです」。
原因を掘り下げて探っていくと、「日本ならではの特殊な要因」が複数あることが明らかになった。
要因の1つは日本のコンシューマユーザーのPC利用シナリオだという。
「PCを利用するさいのユーザーシナリオが、日本のユーザーは5年前からほとんど変わっていない。限定的な使い方にとどまっていることがわかりました。メール、ブラウジング、写真の保存と2000年頃から変化がないんです。
海外ではExcelの利用をはじめ、仕事探し、ゲーミング、さらに子供達が学校の宿題をPCで行なうといった使い方をするようになっています。そういった新しい使い方をしていないのが、多くの日本のコンシューマユーザーだったのです」
日本ならではの特殊な要因のもう1つが、日本の量販店の多さにあるという。
「日本以外の国では、量販店といえばここ! という1社体制になっています。それに比べると日本は、量販店の数は多い、PCメーカーの数も多い。大手量販店では約250モデルのPCが店頭に並びます。こうなるとメーカーは量販店の棚の取り合いになります。量販店を訪れたお客さまもどの製品を選べばいいのかわからない状況になってしまっています」。
このPCのモデル数の多さとは、Mac売り場と比較すると象徴的だという。Macの売り場は展示されているモデル数が絞り込まれているので、自分が購入するモデル選びはWindows PCほど難しくない。250モデル以上が店頭に並ぶWindows PCは、下調べをして店頭に出向いても戸惑ってしまう人が多いようだ。
「店頭で商品を見比べても、どれを選べばいいのかわからない。商品の説明を聞いてもわけがわからない。そういう場合、選択に利用するのが店頭に表示された機能の有無をまとめた○/×表です。その比較表を見ると、機能が少ないよりも多い製品を選ぶ方が得策と思えてくるのです」。
そういった「機能が多い方が良い」ということで選ばれるものの代表が、「DVDドライブ」だそうだ。
マイクロソフトの調査では、PCを購入して7年間、1度もドライブを利用しなかったという人が圧倒的に多いそうだが、それでも「搭載しているモデルを買いますか? 搭載していないモデルを買いますか?」の2択になってしまうと、「搭載しているモデル」を選択する人が多い。
「その結果、DVDドライブ搭載、HDD搭載モデルが選ばれるというサイクルができあがります。DVDドライブ、HDDを搭載せず、SSD搭載の薄くて軽い最新PCは選択外になってしまうのです。
その結果、前に購入したものと大差がないPCを選択し、買い換えても大きな驚きはない、よくないサイクルができあがっていました。
多くの人はPC売り場に行くのは7年に1度以下ですよ。数年ぶりにPC売り場に行ったら、戸惑いよりも、『最新のPCはこんなになっているのか!』と驚いてもらいたいじゃないですか。最新PCに触れてもらう機会を作る、これがモダンPCをアピールするキャンペーンを日本で展開する要因となりました」と梅田氏は振り返る。
2019年11月に日本マイクロソフトが開催したモダンPCに関するプレスイベントでは、モダンPCをかけて梅田氏がアピールした理由も、これまでの説明を聞くと納得できる。