スポーツ×アートをデジタルで融合した新体験、NAKED SPOREV.を体感してきた
デジタルテクノロジ、アート、デザインなどを使って、新しい価値をつくるクリエイティブカンパニー NAKED, INC. (以下ネイキッド)が実施した「NAKED SPOREV. (ネイキッドスポレヴォ)」を体験することができた。これが何かというと、高度なテクノロジによる「スポーツ」と「アート」の融合というテーマを聞くと少し難しそうだが、まさに論より証拠、だれでも気軽に楽しめるアトラクションのようなものだ。今回は、新機軸のスポーツの楽しみ方が垣間見れたこのNAKED SPOREV.を紹介したい。
アートが俺にもっと高く飛べと囁いている
ネイキッドは、花の体感型アート「FLOWERS BY NAKED」や、AIで音楽体験を生み出す「HUMANOID DJ」、"サウナ"をアート体験にしてしまうという「NAKED SAUNA & SPA」などを代表作に、変わったところではレストランでの食事体験をまるごとアートにしてしまう「TREE by NAKED」の店舗運営まで行うユニークな企業だ。壮大な3Dプロジェクションマッピングで東京タワーにタンポポを咲かせ、その綿毛を平和の祈りとともに世界中へと飛ばした「Breath / Bless Project」では、アートの力で世の中を変えたいという同社の想いも感じることができる。
そのネイキッドの「NAKED SPOREV.」、実際に体験したのは今年4月のことで、体験の舞台が置かれていたのは東京・渋谷区に新しくオープンしたばかりの最新ランドマーク「MIYASHITA PARK」。渋谷はネイキッドの所在地でもあり、Google Japanはじめテック系の拠点としてのイメージも強い地域かつ、今回の試みでは自治体の健康増進やスポーツ観光の方針から協力が得られたそうで、NAKED SPOREV.のお披露目にもぴったりだったのだろう。場所自体は、いわゆる旧宮下公園の跡地と言った方が周囲の雰囲気も含めイメージしやすいかもしれない。
当日はHI TECH PHYSICAL TESTから、それぞれ跳躍力・力比べ・瞬発力をアートにできる3つの作品を体験することができた。
カメラセンサやプロジェクタを内蔵する壁に囲われたステージの中央に立つと、体験者の体格を含めた情報が読み取られパーソナライズデータ化され、この後のコンテンツ内の映像演出などにリアルタイムで反映するようになっている。ステージはプロジェクションマッピングで鮮やかに飾り付けられ、挑戦する気持ちを後押ししてくる。そこで実際にチャレンジするのは垂直飛びや筋力測定、反復横跳びだったりするのだが、これがギャラリーの応援の声も相まって、体験中はなんとも"アガる"ため、何となく「俺、やれる」という気分になるのが面白い。実際筆者は、気持ちが体を追い越しすぎたのか、翌日は筋肉痛でひどい目に遭った。
跳躍力では、音楽と映像に後押しされつつ垂直飛びをし、スキャンした体格データと跳躍結果をもとに、鷹がさっそうと舞い上がるアート映像を生成してくれたりする。力比べでは、壁に手をついて全身で押し込んで筋力測定をするのだが、その結果をサイやゴリラが突進するようなアート映像にしてくれるといった具合だ。音楽と映像が絶妙に気持ちを盛り上げてくれるので、繰り返し記録を伸ばしていきたいという気分にしてくれる。こうなってくると筋肉痛は待ったなしで、運動不足への後悔とともに、もっと運動しようという前向きな姿勢を呼び起こしてくれる。
世代問わず、苦手な人にも運動を身近にするテクノロジー
同社はこの取り組みを、「世代を問わず、運動が苦手な人でも身体を動かすことを楽しみながら、健康につなげてもらうプロジェクト」だと説明している。正直、反復横跳びや垂直飛びは楽しいものではないし、こんな風に体を動かしたのは学生時代の体力測定以来だろうか。しかしNAKED SPOREV.では、これがひどい筋肉痛になるくらい楽しめた。反復横跳びが、アートとテックで本当に新しい体験に進化していた。
本件のディレクターであるネイキッドの衛藤一郎氏に伺うと、スポーツをはじめるというハードルを、作品を楽しむことに転換できないかという発想が、NAKED SPOREV.に繋がっていると説明してくれた。確かに、企業の健康増進の福利厚生で導入したり、そもそも学校の体育でも、これを導入してくれたら苦手な子供を減らせるんじゃないかと思えてくる。
この企画自体は2014年頃にはあったそうだが、このようにカタチにできるようになったのは、まさに今のタイミングであったのだとか。東京オリンピック・パラリンピックが計画されていて、スポーツ促進にこれ以上に機運が高まる時期はそうそうないだろうし、それでなくても高齢化で健康はどんどん大きなテーマになるし、コロナ禍で特に健康が心配になる雰囲気でもある。そして、「2014年の時にはできなかった、ネイキッドが表現したかったことに、今のテクノロジが合致した」という点も、このタイミングでNAKED SPOREV.が世に出た理由になっている。
NAKED SPOREV.は、様々なデジタルテクノロジによって成り立っている。現地には体験者の情報を読み取る3Dカメラに、プロジェクションマッピング用のプロジェクタ、それらのデータを入出力、処理するためのワークステーションが置かれる。体験を通して取得した個人のフィジカルデータはクラウドに保存され、体験者により良い運動のためのアドバイスをフィードバックすることもできる。
こういった双方向のコンテンツをリアルタイムに生成する肝となるのがワークステーションだが、今回の体験ではステージ横に、市販クラスのPCワークステーションが数台用意されているという、あまり大げさではない環境で実現されていた。ステージ壁面などの什器こそ大きめだが、この規模のハードウェアにまとまっていれば、そのまま別の場所に設置することも可能だろう。
実は今回のNAKED SPOREV.の体験にはPCメーカーのマウスコンピューターの紹介で参加できたのだが、このPCワークステーションを提供しているのが同社だったという縁からだ。具体的な構成としては、同社のクリエイター向けDAIVシリーズの市販品で、Intel Core CPUに、NVIDIA GPUを組み合わせたデスクトップ型とノート型、計7台が動いている。マウスコンピューターの担当者は「要望を聞いたり、用途に合わせた提案もできるので、機材に困ったらまずは声をかけて欲しい」と呼び掛けていた。
ネイキッドのテクニカルディレクター兼プログラマー、小野航平氏によれば、NAKED SPOREV.では特にGPUのリアルタイム処理を重視したそうだが、映像処理ではCPUパワーも共に必要で、音楽ではCPUがメインなど、各PCで役割が違うため、機能によって柔軟にカスタマイズできる特徴を持つDAIVシリーズはとても都合が良かったという評価だそうだ。さらに開発段階では最終的な必要スペックのゴールが見えていなかったものの、スペックの制約表現の幅が制限されるのも嫌だという事情のなかで、スペックをカスタマイズで"盛り"やすかったDAIVシリーズは、その観点でも助かったとか。
日々の健康促進やプロスポーツも、応用に期待
このNAKED SPOREV.だが、体を動かす楽しさを確かに実感できた、素晴らしい試みのプロジェクトだと思う。今回の様な限られたデモンストレーションに留まらず、もっと世の中にひろがる可能性はどうだろう。前出、ディレクターの衛藤氏は、「いろいろな方向性で展開を考えており、特にウェルネスやエデュケーションの文脈。コンテンツをもっと増やして、学校にも持っていきたいです」と話してくれた。
今回体験したのは身体測定型の「HI TECH PHYSICAL TEST」であったが、体力測定だけでなく、バスケや野球やサッカー、行く行くはあらゆるスポーツに拡げたいという野望もあるそうだ。
衛藤氏は「一流であるほど、実はその動きは美しいのではないか」ともいい、NAKED SPOREV.の将来に向けて、プレイヤーの技術の高さをアートの美しさで表現できないかという発想もあるという。センシングデータの取得、蓄積こそがNAKED SPOREV.の根幹だとされている。デジタルデータから生み出された美しさやクールさは、体を動かす楽しさといった入口のところだけでなく、もしかしたら高度なトレーニングや、スポーツ科学の分野までカバーできるようになるのかも……なったら「楽しいな」と、すっかり運動とは縁遠くなってしまった筆者は思う次第だ。