ファッションブランドとのコラボを進めるサムスンの折りたたみスマホ
日本でも発売された「Galaxy Z Flip3 5G」「Galaxy Z Fold3 5G」はディスプレイを曲げることのできるスマートフォンです。それぞれ縦折り式、横折り式と本体デザインが異なりますが、この2種類の折りたたみスマートフォンをどちらも販売しているメーカーはサムスンだけです。折りたたみスマートフォンはこれから需要が伸びると予想されていますが、この次世代製品をプレミアムなものにしようと、サムスンはブランドとのコラボモデルを次々と出しています。
サムスンは2021年にラグジュアリーファッションブランドのトム ブラウン(Thom Browne)モデルを発売しました。日本でも販売され、Galaxy Z Flip Thom Browne Editionは29万4,000円、Galaxy Z Fold2 5G Thom Browne Editionは41万7,000円という、スマートフォンとは思えぬ価格で話題となりました。
トム ブラウンモデルの価格が高いのはファッションブランド製品としてトム ブラウンの店舗でも販売されるため、パッケージングもブランドイメージそのままのデザインとし、さらにスマートウォッチやTWS(小型ワイヤレスヘッドフォン)もセットしているからです。また本体カラーもトム ブラウンのものに合わせた限定バージョンとなっています。トム ブラウンの愛好者ならば、その完成度の高さからこの価格を高いとは感じないかもしれません。実際にどちらのモデルも発売後すぐに完売しています。
2021年にはGalaxy Z Flip3 5GとGalaxy Z Fold3 5GそれぞれのThom Browne Editionが同時に発売され、8月の予約開始時点でほぼ販売国のすべてで売り切れたとの話が聞かれます。サムスンとトム ブラウンのコラボは今のところ好調であり、テクノロジー製品であるスマートフォンのファッションブランド製品化に成功しています。
ファッションブランドは価値観や世界観を重要視しますから、サムスンが他のブランドとコラボレーションするとしたら、パッケージングも含め異なるアプローチをとるでしょう。たとえば韓国ではゴルフウェアも手掛けるPXGモデルを8月に発売、10月にはパリコレにも出展しているメンズブランド、ウーヨンミ(WOOYOUNGMI)モデルを発売しました。
全体のパッケージはそれぞれのブランドをイメージしたものになっていますが、製品は市販のGalaxy Z Flip3 5G、Galaxy Z Fold3 5Gと同じものであり、ケースやアクセサリなどをブランドのものにしています。PXGモデルはスポーティーなファッション製品、ウーヨンミモデルはスタイリッシュなデザインが韓国で人気とのこと。この2例のようにライトなコラボモデルなら各国での独自展開もやりやすいでしょう。
もはやスマートフォンが技術だけで勝負する時代は終わっています。メーカーのブランド力を高めることも必要ですが、日用品となったスマートフォンを、自分の好きなブランドや高級品として持ちたいと考えるユーザーも多いでしょう。アップルがApple Watchでエルメスモデルを出しているのも、「腕にはめるアクセサリ」であるスマートウォッチはブランド品を持ちたいというユーザーの声を反映したからでしょう。とはいえ単純にブランドの力を借りたような製品は、目の肥えた消費者は見向きもしません。Apple Watchというデザイン・性能に優れた製品だからこそ、エルメスモデルが人気なのです。
さてファッションブランドとはやや異なりますが、サムスンは中国で「高級スマホブランド」の展開も行っています。中国のキャリア、チャイナテレコム(中国電信)と2009年から共同開発・販売を行っている「心系天下(Xin Xi Tian Xia)」です。初代モデルから富裕層や企業のトップクラスをターゲットにしており、サムスンの既存のスマートフォンにはない別設計の製品を毎年1機種展開しています。なお製品はすべてが2つ折り式デザインです。
2019年からはベースを折りたたみスマートフォンとし、本体デザインを若干変えたうえで別モデルとして販売しています。2021年10月13日に発表された「W22」はGalaxy Z Fold3 5Gがベースですが、ヒンジ部分の形状などが変わっています。また全体をブラック&ゴールドとすることで重厚感を高めています。手書き用のスタイラス「Sペン」も付属しますが、金のラインの入った特別版になっています。10年以上も心系天下シリーズが続いているのも、高級品としてブレない製品づくりを行っているからでしょう。
折りたたみスマートフォンはディスプレイの設計・開発・組込みノウハウが必要なことから、参入障壁の高い製品です。他社が足踏みしている間に、サムスンは製品そのものをブラッシュアップさせていくだけではなく、ファッション製品という新しいカテゴリにも進出することで、他社との差別化を計ろうとしているわけです。