『異常者の愛』何故ここまでこの作品に私は惹かれ続けるのか【TSUTAYAの名物企画人“仕掛け番長”のススメ】 - TSUTAYA/ツタヤ
常軌を逸した行動の数々。そこに感じる怖さと純粋な想い。
本はほぼ毎日のように新刊が発売されているが、年末や年始にかけて新刊の発売が発売されないタイミングが毎年訪れる。マンガを読むことが毎日の習慣になっている私はそんな時「何読もうかな」と少し考え、本棚からお気に入りの作品を取り出して1巻から通して再読したりする。『異常者の愛』はそんな時に私が手にする事が非常に多い。
この作品は、一人の少女とその少女に惚れられてしまった少年を中心に描かれた恋の物語だ。通常の恋愛ものと違う点、そしてこの作品の最大の魅力にもなっているのは、ヒロインである三堂三姫の取る行動の数々の異常性。思わず目を背けたくなる場面も多いその三堂の行動の数々は、読んだものの心に彼女という存在を刻み付ける。
本来ならば嫌悪してしまうであろうこの三堂というヒロインに、なぜか私は惹かれるものがある。最初に書いた通り、それこそ何度もこの『異常者の愛』を読んでしまうほどだ。何故か。それは常軌を逸した行動の数々は確かに理解できないものであるのは間違いないが、ここまでたったひとつの初恋を大事にし続ける彼女に、怖さと同時に純粋さも感じてしまうからなのだと思う。
可愛らしく、まるで明るく楽しいラブコメ作品のような前半、そして後半で描かれる一気に読者を突き落すような三堂の異常性とその恋心の結果起きてしまう凄惨な事件。
『異常者の愛』では、三堂三姫とその想い人・一之瀬一壬弥が小学生から成人となるまでを描いている。1話目では6年前の出来事として小学生時代が描かれている。可愛らしく、まるで明るく楽しいラブコメ作品のような前半、そして後半で描かれる、一気に読者を突き落すような三堂の異常性とその恋心の結果起きてしまう凄惨な事件。それこそ『魔法少女まどか☆マギカ』をはじめてみた時にも似たこの読み味は、まだこの作品を読んだことが無いという方に1話だけでも絶対読んで欲しいと思うほどの衝撃だった。
しかしこれはあくまで序章でしかない。最期までいってしまっている、もうこれ以上は無い。そのはずのこの小学生のころの事件は彼女がまだ幼かったゆえの結果だった、と読者はその後の展開で知る事になる。
そしてこの作品のもう一人のヒロイン・四谷四乃。この『異常者の愛』はいわば三角関係ものともいえるほど四谷の存在も大きい。彼女は三堂とは正反対で三堂が一之瀬にとって闇ならば、四谷は光の存在のように描かれるのだが、一方でこの四谷の一之瀬への想いは異常なほど一途に感じる。もちろん物語の中では三堂に対して四谷は普通の人として描かれているし、それこそ最後の三堂の言葉でもそれを印象付けられることになるのだが、この作品の中で四谷が経験する事になったものは決して時間が解決するようなレベルのものだとは思えない。そんな中で、何年も会ってもいないのに一之瀬を好きでいつづけた彼女の一途さは決して三堂に勝るとも劣らないと私は思う。
そしてこうも思うのだ。行動や表現は違えど、二人のヒロインの想いにはそこまで違いはないのではないだろうかと。誰にも理解できない存在であるはずの三堂を唯一理解していたのは四谷なんじゃないか、とすら読めば読むほど感じてしまう。
物語のタイトルにもなっている「異常者の愛」この意味は最終巻に三堂のセリフとなって語られる。(これは読者の考えをいい意味で裏切るモノともなっており、多くの方はかなり衝撃を受けると思う)三堂が人生をかけて否定し続けてきたものでもあるそれは、読者一人一人がどう思うのかという大きな問いかけにもなっている。
またきっと私は何度もこの作品を読むのだろう。もし気になったという方はまずは1話だけでも読んでみて欲しいと思う。全6巻と読みやすく、また物語に無駄な部分が一切ないとても完成された作品である本作。この『異常者の愛』はとてもオススメしたい1作だ。
(文:仕掛け番長)
仕掛け番長のおすすめ本
異常者の愛
出版年月:2018年10月著者:千田大輔出版:講談社
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【コンシェルジュ】仕掛け番長
栗俣力也(くりまた・りきや)。絶版書の復刊プロデュースを数多く仕掛け、ヒット本を発掘することで知られ、読者や出版業界関係者に「仕掛け番長」の愛称で呼ばれる本が大好きな日本男児。
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