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「フィジカルインターネット」で変わる日本の物流、2030年には業界一変か
連載:「日本の物流現場から」
2021年10月6日、経済産業省は、「第1回フィジカルインターネット実現会議」を開催した。「フィジカルインターネット」とは、インターネットの仕組みをまねて、物流を最適化しようとする試みで、物流の究極の形の1つという見方もできる。本稿では、フィジカルインターネットの概念と、現業の運送会社、倉庫会社に対してどのような影響をもたらすのかを考えていこう。
物流・ITライター 坂田 良平
物流・ITライター 坂田 良平
Pavism 代表。元トラックドライバーでありながら、IBMグループでWebビジネスを手がけてきたという異色の経歴を持つ。現在は、物流業界を中心に、Webサイト制作、ライティング、コンサルティングなどを手がける。メルマガ『秋元通信』では、物流、ITから、人材教育、街歩きまで幅広い記事を執筆し、月二回数千名の読者に配信している。
<目次>- 最適とは言い難い、現在の物流
- フィジカルインターネットとは
- フィジカルインターネットに欠かせない3つのポイント
- フィジカルインターネットがもたらす影響
- フィジカルインターネットは事業者の二極化を加速する
- 物流の能力が企業の競争力の決定要因に
最適とは言い難い、現在の物流
フィジカルインターネットの背景知識として、ある製品が、皆さまの手に届くまでの過程を考えてみよう。- メーカーの工場で完成した製品は、品質検査や検品を受けた上で、大都市圏(ないしその近隣)にある、メーカーの物流センターまで輸送される。
- メーカーの物流センターでは、再度検品を行った上で、仕分けされて、たとえば家電量販店の運営する物流センターまで輸送される。
- 家電量販店の物流センターでは、さらに検品を行った上で、店舗ごとに仕分けされ、店舗まで配送される。
フィジカルインターネットとは
フィジカルインターネットは、インターネットの仕組み、とりわけ、シェアリング(共有)とコネクト(連携)をまねて、物流を最適化しようとする試みである。 フィジカルインターネットというキーワードの創造主である、ジョージア工科大学 ブノア・モントルイユ教授の著書『フィジカルインターネット 企業間の壁を崩す物流革命』(日経BP刊)において、フィジカルインターネットは以下のように定義されている。 たとえば読者の皆さまは、あなたが本稿を閲覧しているPCやスマートフォン、タブレットなどに対し、本稿のデータ(文字や画像など)が、どういった経路を経由して表示されるに至っているかを意識している人はいないと思う。 これは、相互に接続され、共有と連携を実現したインターネットという仕組みが、あなたにとって最適な経路を自律的に選択し、本稿コンテンツをお届けしているから、実現していることだ。 現在の物流ネットワークは、インターネットに例えると専用線の膨大な集合体である。メーカーから物流センター、物流センターから店舗へと運ばれる輸送ルートは、その貨物を輸送するためにしつらえられた、その貨物のためだけの専用輸送ルートである。 もちろん、共同輸送や路線便といった、共同輸送のために実現している仕組みもある。しかし、どちらも輸送可能な貨物や輸送範囲には制限がある。 フィジカルインターネットは、荷主間にある壁、物流事業者間にある壁、運べる/運べない貨物の壁などを取り除き、限りなくオープンな物流ネットワークを創り上げることで、究極に最適化された物流を目指す、物流革命なのだ。フィジカルインターネットに欠かせない3つのポイント
乱暴なたとえになるが、世界に“物流の神様”がいて、世界中の貨物と、輸送リソース、倉庫の空き状況を見ることができれば、「ウチの貨物を保管する倉庫がありません」「仙台から帰り便が空いています」などといった荷主や物流事業者の嘆きは、きっとすべて解決してしまうであろう。 フィジカルインターネットは、こうした“物流の神様”に近しい存在を、人の手によって創り上げるための切磋琢磨と考えられる。では、“物流の神様”たるフィジカルインターネットに必要な要素は何か? 1つ目は、すべての情報を見通すことのできる力である。貨物、トラックなどの輸送リソース、倉庫の空き状況などが、オープンかつリアルタイムに共有されていれば、ありとあらゆる物流リソースを最適化することができる。 1993年には55%近くあったトラックの積載効率は、現在では40%以下まで低下している。この原因には、時間指定輸送であったり、貨物が多品種・小ロット化していることが考えられる。つまり、相積みできる貨物のマッチングが、以前よりも難しくなっているためだが、フィジカルインターネットによって、こういった諸事情をクリアできれば、トラックの積載率も空き倉庫の割合も、劇的に改善するであろう。 2つ目は、貨物・輸送リソース・倉庫の空き状況などの情報が、共通の形式で入手伝達可能であることだ。かたやFAX、かたや電話、もしくはメールや、形式の異なるファイル形式でやり取りされる情報を、すべて適切に理解することは難しい。共通のデータ形式、すなわち標準化されたプロトコルの存在が、フィジカルインターネットでは必須となる。 3つ目は、標準化されたコンテナの存在である。仮に「この貨物を自分のトラックに積めば、積載率を向上させることができる」とわかっていたとしても、手積み手卸しによる積み替えを強いられれば、運送会社同士はお互いに面倒であろう。第一、手積み手卸しを必要とする貨物であれば、積載効率は、積み込みを行うトラックドライバーの積み込み技術にも左右されてしまう。すなわち、必ず積めるという安全マージンを確保せざるを得ず、したがって積載効率は自ずと下がってしまう。 標準化された複数サイズのコンテナが用意できれば、積み地から卸し地まで、途中で何回積み替えがあろうとも、コンテナを開封することなく、輸送することができる。いわば、海上コンテナ輸送で実現した輸送方式を陸上で再現する形ではあるが、標準化されたコンテナなくして、フィジカルインターネットは実現しない。 なお、フィジカルインターネットへの取り組みは、輸送プロセスだけに影響するものではない。フィジカルインターネットとは、サプライチェーン全体を最適化するものだからだ。 フィジカルインターネットの考え方では、メーカーも標準化されたコンテナサイズに収まるように、製品開発を進めることが求められる。そうしないとメーカーは、フィジカルインターネットが実現した物流革命後の物流ネットワークを利用できず、現在の主流であり、フィジカルインターネットが実現する頃にはレガシーな存在となっているかもしれない、専用線型物流ネットワークを利用せざるを得なくなるだろう。【次ページ】フィジカルインターネットは、運送会社や倉庫会社にどのような影響をもたらすのか?お勧め記事
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