親のスマホ制限、楽々突破する子どもたち - WSJ
米コロラド州在住の不動産ブローカー、ランス・ウォーカーさん(43)は3年前から、アップルの「iPhone(アイフォーン)」や「iPad(アイパッド)」の使用制限をめぐり、娘のペイトンさん(11)といたちごっこを繰り広げている。
当初、ペイトンさんがダンス動画を見るのに使っていた短編動画アプリ「TikTok(ティックトック)」を、ウォーカーさんは無害な気晴らしだと考えていた。だが、娘がふざけたポーズを撮影した動画を公開した後、複数の見知らぬ成人男性からメッセージが届いていることを知り、すぐに保護者による制限機能(ペアレンタルコントロール)の設定画面を開き、ティックトックの使用をブロックした。ペイトンさんは対抗手段として、別のアップルIDを使ってティックトックを含む新しいアプリをダウンロードした。
父親のウォーカーさんがこのアップルIDを削除しようとすると、ペイトンさんはパスワードを変更し、父親がアカウントに入るのを阻止した。このようなことが何カ月も続き、ウォーカーさんがアップルの「スクリーンタイム」の制限機能を使って特定のアプリをブロックしようとしても、娘は毎回それを妨害するようになった。
「悪夢のようだった」とウォーカーさんは言う。ペイトンさんをティックトックから遠ざける確実な方法を、妻と共に今なお模索しているという。
主要な携帯向け基本ソフトウエア(OS)を提供するアップルとアルファベット傘下のグーグルは、ペアレンタルコントロールが子どものテクノロジー使用に対する親の監視手段になると宣伝してきた。だがテクノロジーに精通する子どもたちは、新型コロナウイルスの影響でオンライン視聴時間が急増する中、子どもを保護する監視手段をあの手この手で回避している。
親たちはこの監視方法があまり簡単でない上に、抜け穴が多すぎると訴えている。ユーチューブ、インスタグラム、ティックトックなど個々のアプリも独自の制限機能を備えており、子どものオンライン活動を監視する親の作業をさらに複雑にしている。これらの機能に加え、有料の監視サービスを利用することもできる。特定のアプリ上の子どもの行動を監視する「Bark(バーク)」や、アプリ利用をフィルタリングし、時間制限を設定する「Circle(サークル)」などだ。だがこれらのサービスにも限界がある。
「当社はユーザーに(アップルのOSである)iOSの搭載機器を管理する強力なツールを提供すると約束し、常にそれを向上する努力を続けている」と、アップルの広報担当者は述べた。
グーグルはコメントを控えた。北京字節跳動科技(バイトダンス)が運営するティックトックはコメントを控えたが、同社が提供する保護機能の一部を挙げた。例えば、ティックトックのユーザーが自身のアカウントを非公開に設定すれば、コンテンツを視聴したり、メッセージを送ってきたりする人を制限できるという。また、ウォーカーさんの事例が判明した後、ティックトックはペアレンタルコントロールに機能を追加した。例えば、保護者が子どものアカウントを自分のアカウントにリンクさせる機能などだ。
アップルの「スクリーンタイム」は解決策を提供するものの、設定が複雑で、うっかり間違えると制限するはずのサービスを利用する許可を与えてしまいかねないと、保護者や専門家は話している。
「私は長い間テクノロジーに携わり、製品を相当よく理解しているが、それでも信じられないほどまごついた」。画像共有サイト、ピンタレストの元社長で、直近ではスクリーンタイム管理アプリを運営していたティム・ケンダル氏はそう語る。
制限なく画面に触れ、疑わしいコンテンツにさらされることは、子どもたちのメンタルヘルスの問題につながるとされている。9月には、インスタグラムが若いユーザーの多く(特に10代の少女)に有害である可能性を親会社のフェイスブックは認識していたとウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が報じた。現在メタ・プラットフォームズに社名変更したフェイスブックは、この調査結果に異議を唱えている。
WSJの報道の後、今月上院で行われた公聴会で、インスタグラムのトップであるアダム・モセリ氏は、インスタグラムにペアレンタルコントロールを付けた子ども向けバージョンを立ち上げることを確約した。
ソーシャルメディアアプリのティックトックやインスタグラム、ユーチューブなどは今夏、英国でIT企業が子どもの安全性に配慮した製品を提供するように求める新規制の導入を前に、多数のペアレンタルコントロールや安全性確保のツールを発表した。
アップルは2018年にiOS12の一部としてスクリーンタイムを立ち上げて以来、大きなアップデートを行っていない。米国の10代の若者にはiPhoneが圧倒的に好まれており、スクリーンタイムのアップデートは桁外れに大きな意味を持つ。米金融サービス会社のパイパー・サンドラーがこの秋に行った10代の若者1万人を対象にした調査では、約87%がiPhoneを所有していると答えた。
多くのオンライン安全性推進団体は、親を支援するいくつかの修正案をアップルに提言している。一つは子どもがアップル端末間のメッセージ機能「iMessage(アイメッセージ)」のテキストを削除しないように保護者が設定できること。もう一つは、端末の設定時にユーザーが誕生日を入力すると、年齢に応じた安全性のデフォルト設定が起動することだ。
その一方で、各社がいかなる対策を講じようとも、子どもは親のテック技能を出し抜く方法を編み出し続ける。基本的なパスコード・スパイ(親がセキュリティーコードを入力する前にこっそり画面録画ソフトを作動させる)に始まり、工場出荷時リセット(スクリーンタイムの設定をすべて白紙に戻す)のような過激な方法まで多岐にわたる。
中には、親が独自に解決策を考えたケースもある。
臨床ソーシャルワーカーの資格を持つバージニア州在住のステファニー・ポレーさんは、娘のアップルIDをポレーさん自身のノートパソコンに打ち込み、娘が後で削除したテキストメッセージも見ることができた。娘がグループ内のテキストメッセージのやり取りでネットいじめに遭ったとき、これが決定的な役割を果たした。関与した子どもの多くはメッセージをすでに削除していたが、ポレーさんがコピーを残していたため、保護者や学校管理者はこの事件(ポレーさんの娘に対する物理的な脅迫もあった)に対処することができた。
「これはフルタイムの仕事だ。別のフルタイムの仕事を掛け持ちする時間はない」とポレーさんは言う。