ニュース 素粒子「ミューオン」で噴火を予測…火山内部のマグマを画像化
鹿児島湾に浮かぶ桜島火山の空撮写真。
ミューオンという素粒子は、宇宙線が地球の大気に衝突する際に発生する。ミューオンは物体を透過するため、科学者たちはミューオンを使って火山の内部を探っている。【全画像をみる】素粒子「ミューオン」で噴火を予測…火山内部のマグマを画像化この技術はミュオグラフィーと呼ばれ、火山噴火予測に役立つ可能性があるという研究結果が出ている。ミューオンはどこにでもある。気付いていないだろうが、あなたの頭にも毎秒数百個のミューオンが直撃している。この素粒子は、宇宙線が地球の大気に衝突する際に生成され、無害で、すぐに減衰して軽い粒子の集まりになる。この素粒子はX線のように物体を透過するので、科学者にとって有用な存在だ。2017年にはミューオンを使ってエジプトの大ピラミッド内部にこれまで知られていなかった巨大空間が発見された。また、イギリスの王立協会紀要に2021年11月10日付で掲載された論文によると、ミューオンは火山の内部構造をマッピングすることにも利用され、危険な噴火を予測するのに役立つようになるという。チリのアタカマ大学の地球物理学者であり、論文の筆頭著者であるジョバンニ・レオーネ(Giovanni Leone)によると、マグマが流れる火山内部の洞窟、大空間、岩の隙間を、ミューオンがどの程度通過するのかを測定し、そのデータに基づいて地質学的な地図を作成するという。ミュオグラフィーと呼ばれるこの技術は、いずれ「究極のマグマ検出システム」になるだろうと、レオーネはニューヨーク・タイムズに語っていて、噴火前のマグマの動きを追跡することもできるようになると付け加えた。
X線撮影のように火山内部を画像化
ミューオンは、素早く動く大きな電子のようなものだ。負の電荷を持っているが、電子の207倍の重さがあり、ほぼ光速で動く。この重さと速さによって、ミューオンは火山の岩のような密度の高い物質を通り抜けることができる。しかし、物体の密度が高いほど、ミューオンが通り抜けるスピードは遅くなり、減衰していく。多くのミューオンは火山の側面に衝突すると、そのまま反対側に通り抜ける。しかし、火山の密度が高い場合、例えば岩の隙間がマグマで満たされている場合などには通り抜けることができない。どの程度のミューオンが通り抜けたのかを調べるために、火山の側面にミューオン検出器を設置する。火山を通過したミューオンを捉え、通過できなかったミューオンはどこで力尽きたのかを把握することで、火山内部を画像化する装置だ。ミューオン検出器をヘリコプターに搭載し、火山の側面近くを飛び、画像化を行う研究者もいる。これは、例えば足のX線検査を行う場合に似ている。X線が照射され、遮るものが何もなければ、黒い画像が写し出される。しかし、足の骨がX線を吸収すると、カメラが捉える放射線の量が少なくなり、画像では骨の部分が白く見える。火山のミュオグラフィーでも、同じようにコントラストを捉える。ミューオンが完全に通過すると、検出器に暗く写る。しかし、ミューオンが火山の密度の高い部分に衝突し、より早く減衰すると明るく写る。つまり、物体の密度が高いほど、明るく写るということだ。火山を取り囲むミューオン検出器の数が多いほど(テニスコートほどの大きさのものもある)、よい画像が得られる。グラスゴー大学のミュオグラフィー研究者、デイビッド・メイホン(David Mahon)(今回の研究には参加していない)によると、1つの検出器では2Dの画像しか得られないという。「対象物の周囲に複数の検出器を配置することで、大まかな3D画像を構築できる」とメイホンはニューヨーク・タイムズに語っている。
Aylin Woodward